大型トラックでは充電器の高出力化のほうが重要
車両の航続距離を900kmとしても(安全マージンにより実際の走行距離は最大800km)、必要なロケーション数は少なくなるものの、カバー率はほとんど変わらなかった。いっぽう充電器の出力(650kWと1000kW)は大きな影響を与えることがわかった。
電気自動車用の充電インフラが限られる中で、乗用車用と商用車用を兼用として充電ステーションの数を増やし、BEVのカバー率を向上することも考え方の一つではあるが、今回の研究から言えるのは、大型トラック用は大電力を扱える専用規格とした上で、需要に基づいて最適な配置を行なったほうが、限られた予算の中で最大の結果をもたらすということだ。
レポートの著者の一人でフラウンホーファー研究機構のパトリック・プレッツ博士は次のように述べている。
「これらの結果から、トラック輸送の電動化に際して、EUのインフラ負担は想定より少なくなる可能性があります。ただし、一部の地域に需要が集中するため、電力網を強化する必要があります。中にはMCSに対応した充電器を20基備え、12メガワットの電力供給を求められるステーションもあります。
したがって、商用車の電動化を進めるには電力グリッドにも相応の変革が求められます。とはいえ、欧州の一部の政府は、すでにそのための取り組みを進めています」。
博士は結論として、BEVトラックの受け入れを欧州で推進するにはMCSに対応した充電施設を、戦略的に(最適な地域に)導入する必要があるとしている。
「業界はMCSをはじめとする大電力での充電システムの開発を急ぐ必要があります。中小の事業者にとっては公共インフラが重要となるからです。MCSが商用化されれば、インフラ投資や用地取得などBEVトラックの総保有コストに関する複雑性が解消し、コスト最適化を進めることができます」。
もちろん将来的には市場競争に任せることも必要だが、商用車の電動化で出遅れてしまった日本としては、海外事例を参考に、コスト効率に優れた方法で戦略的に輸送部門の脱炭素を進めていくことも重要になりそうだ。
【画像ギャラリー】充電ステーションより重要? メガワット充電に成功したドイツ・MANの電気トラック(4枚)画像ギャラリー