パリティ価格は遠いが水素は大型トラックの本命技術
水素はトラック用次世代燃料の本命とされる。特に大型トラックでBEVよりFCEVが重視されるのは「航続距離」と「積載量」のためだ。FCEVならディーゼル車と同じ量の荷物を、同じ距離だけ運ぶことができるが、BEVはそうではない。
トラックをBEV化すると、同じ荷を運ぶのにより多くのトラックが必要になり、環境性能を相殺してしまう。このため、内燃機関車がガソリン車とディーゼル車に分かれたように、ゼロ・エミッション車ではBEVとFCEVに分かれる可能性がある。
FCEVの普及を阻んでいるのが高価な車両価格と燃料電池システムの耐久性とも言われるが、実際に燃費を比較してみてわかるのは、水素価格が最大の障壁ということだ。イニシャルコストを吸収するどころか、かえって高くつく現状では「実証」の域を出ない。
調査会社のSNEリサーチによると2024年上半期の世界のFCEV販売台数は5621台で、前年同期より大幅に減った。最大のマーケットは中国でそのほとんどが商用車だ(2501台中2478台)。中国と韓国で世界シェアの7割を占める。日本は世界4位だが乗用車に集中しており、本命の商用車で存在感が乏しい。
FCEVが減少に転じた理由の一つとして、SNEリサーチも指摘するのがグリーン水素の価格変動の大きさだ。水素社会の進展に伴い価格の低廉化が進むというのが各国が描くシナリオだが、最近はエネルギー価格とともに水素価格も高騰し、思惑とは逆行している。
ニコラのFCEV燃費データから、燃料コストがディーゼル車と同等になるグリーン水素の価格(パリティ価格)を計算すると、約580円/kgとなる。市場価格(2000円前後)との乖離は大きい。
政府の水素基本戦略では2030年ごろまでに「基準価格と参照価格(既存燃料とのパリティ価格)の差額を支援するスキームを検討する」としている。FCEVトラックが現実的な選択肢となるのは、こうしたスキームの導入以降になるだろう。
逆に言うと、パリティ価格を達成すれば運送会社にとって水素は燃料費を節約するオプションとなるため、普及が急速に進む可能性があり、やはり大型車の脱炭素における本命技術であることに変わりはない。
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