【バトル考察】
まず一本目、先行するのはインテR。スタートするなり、酒井は回想に入る。たとえ邪道と言われる手法であっても、VTECにターボを付けて馬力を向上させていること。そのこだわりは、「FFの可能性を追っかけてみたい」から、そして、世に溢れる大排気量のFRとも勝負できるような「迫力あるインテRを作りたい」から。とにかくインテR愛があふれているのだ。
このインテRのターボが後付けでありながらもかなり効いていて、後方から追いかける啓介をして、「速えな…!! FFでも上りでこんだけトラクションかせげるのか?」、「手ごわいぜ兄貴」とまで言わせている。また、コースの大部分が中高速コーナーでトラクション不足が顕著に表れないこともインテRに好影響していた。
ここにきて集中力が高まり、テンションが上がった酒井は「スマイリー酒井」というあだ名どおりの、笑ってるような表情を見せている。ハイパワーFF特有のハンドリングのクセも「ジャジャ馬ぶりが実感できて、かえって面白い!!」と言えるほどの余裕であった。
そして、それでも離されないRX-7に対して酒井が見せた奇策が、ブレーキランプの点灯である。中速コーナーの立ち上がりで目の前のインテRのブレーキランプを見た啓介は、反射的にアクセルペダルをリリースしてしまう。このフェイントが見事に啓介のタイミングとリズムを狂わせ、インテRから引き離されてしまうであった。
この撹乱戦法につづき、後方のクルマをコントロールするのが得意な酒井が次に繰り出したのは、いいリズムに乗ってきたところで、ブラインドコーナーにわざとオーバースピードで突っ込むという、コース熟練者でないとクラッシュしかねない危険な戦術だった。
案の定、インテRに続く形でオーバースピードでコーナーへ突っ込んでしまったRX-7だったが、啓介の天性のスーパーテクニックでスピンを回避。涼介が評価するところの「野生的なひらめきと瞬発力」で、なんとかRX-7はクラッシュをせずギリギリでコーナーを通り抜けた。
酒井の戦法をなんとか制した啓介は、闘争心に火がつく。まるで火の玉のようになって突進するRX-7。徐々にその差を縮めていったところで迎えたヘアピンは、FFターボのインテRにとって、低回転域で前輪のトラクションが足らない苦手なポイントだった。
酒井はここで再度、ブレーキフェイントを使い、RX-7を引き離そうと画策していた。ところがヘアピンの出口、酒井が左足ブレーキを踏む前に、RX-7のフロントノーズがインテRのリアフェンダーと接触。2台は横並びになると、そのままの形で次のコーナーにつっこんでいく。
こうなると最後は加速性能と闘争心のぶつかり合い! 横並びのため、コーナーがいつもより狭く、走行ラインが制約されていると感じる酒井。結果、コーナー通過スピードが低速になり、FFターボの弱点を披露することになってしまう。
結果、そのままストレートでインテRを引き離したRX-7が勝利を収めることとなる。FFとFRという宿命の対決でありながら、技巧派の酒井と本能で戦う啓介という対照的な2人を競い合わせた至高のバトルであった。
主人公である拓海と啓介がFR車を選んでいる時点で、まるでFF車がヴィラン(悪役)のようであるが、実はそうではないことはこのバトルを読めばよくわかるに違いない。抽象的な表現ではあるが、思い入れのあるクルマと心を通い合わせるということも、この作品のコンセプトなのかもしれない。
■掲載巻と最新刊情報
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