多発する高齢者による交通事故が社会問題となっているなか、2019年12月1日にスバル主催の「スローエイジング・ドライビングレッスン」が、東京都三鷹市のSTIギャラリーと同じ敷地内にあるスバルの三鷹事業所にて行われた。
「加齢は止めることはできないが、遅らせることができる」をテーマにした、このドライビングレッスンはどんなものだったのか?
文&写真/永田恵一
■イベントのコンセプトとその概要
このドライビングレッスンは、2030年に自社のクルマによる交通死亡事故ゼロを目指すスバルが「自動車メーカーがいくら事故を起こしにくいクルマを造っても、ドライバーが正しい運転技術や知識を持つことも非常に重要」というコンセプトで、CSR(企業による社会貢献)の一環として、50歳以上のプレ高齢ドライバーを対象に主催したものだ。
講師陣は、チーフインストラクターをベストカーWebやベストカー本誌でもお馴染みのレーシングドライバー兼自動車ジャーナリスト兼僧侶である松田秀士氏(12月22日で65歳)、スバルWRX STIで全日本ラリーなどに参戦する新井敏弘氏(12月25日で53歳)と鎌田卓麻氏(あと20年はラリーを続けたい45歳)が務めた。
特に松田氏はレースデビューが28歳と遅かったこともあり、現役レーシングドライバーを長く続けるため、以前からスローエイジングに関心を持っていたことや、2000年のインディ500の練習中に、320km/hで瞬間的に160G(体重の160倍)の衝撃を受けるという大クラッシュに遭い後遺症が残ったこともあり、40代で高齢者が覚える体の辛さを経験している。それだけにこういったドライビングレッスンには適任のチーフインストラクターである。
■スローエイジングの必要性を座学で学ぶ
イベントは松田氏による座学からスタート。45分間の座学では、視力に関する内容にかなりの時間が費やされ、具体的には利き目の把握や老眼に至る過程などが紹介された。
特に老眼に対しては、「人間は目で見た情報を脳で処理して体を動かしているため、目の疲れは頭の疲れとなる、老眼に対する入念に検眼した遠近両用メガネの必要性」や、目に対してはルテインが非常に有効な栄養素であること、紐を使った眼筋を鍛える目のトレーニング、目の疲れを抑えるためにはクルマのディスプレイは暗めに調整するのを薦めるといった内容だった。
また運転中の眠気対策には、「糖分が切れた時の反動でツラくなるのを抑えるため、食事はユックリと取ること」、目の乾燥対策にヒアルロン酸入りの目薬(薬局では売っていない)の有効性という話題も挙がった。
さらに体に対してはバランスボール、目と脳に対しては色付けされた矢印がランダムな方向に並んだバランスシートを使ったトレーニングが紹介され、参加者はどの内容にも強い関心を示していた。
■愛車を使って実技を学ぶ
●ドライビングポジション
正しいドライビングポジションは運転の第一歩ということもあり、このドライビングレッスンでも松田氏による実車を使っての講義が行われた。ポイントとしては、
[1]手は背中をバックレストに密着させた上で、ハンドルのチルト&テレスコ調整機能も使って手首がハンドルの頂点に乗るくらいに合わせる。
[2]足は膝に力が入りやすくコントロールもしやすい、膝と太腿が110度くらいに曲がる位置。
[3]ハンドルの回し方は現代のクルマはほぼ100%パワステ付なことや衝突時にエアバッグによる肘の怪我を防ぐため、パワステのない時代はよくあった内掛けハンドルは厳禁。
ということが挙げられた。
ブレーキ操作に関しては、「イザという時には、とにかくブレーキを力一杯踏めれば、大事故になる可能性は激減すること、そのためにも正しいドライビングポジションを取ることが重要」が強調された。
またブレーキの踏み方は「今のクルマのブレーキペダルは、無効ストロークと呼ばれる踏んだ際の感覚が薄いところが増えており、この点がアクセルペダルとの踏み間違いが増えている原因にも感じるので、右足の踵を床に着けて支点にするような踏み方がおススメ」というアドバイスもあった。
なおドライビングポジションについては参加者各々のクルマでも再度確認し、3人の講師陣がチェックする時間も設けられた。
●自分のクルマを使った体験レッスン
ここでは各々のクルマを使い、短い加速からのウェット路面でのフルブレーキング、7m程度の狭い間隔のスラローム、前進駐車、後退駐車を連続して行うというメニューが設定された。短いコースながら内容は濃く、プロの運転を間近で見られる同乗と講師陣によるアドバイスをもらえる逆同乗もあるという豪華なものだった。
見ていると特にフルブレーキングではスピードがそれほど出ていないにも関わらず思い切りブレーキを踏めないドライバーもしばしばおり、やはりこういったことを安全な場所で経験する重要さを痛感させられた。
閉会式では松田氏から「免許を返納すると(外に出る機会が減ることもあり)要介護になるリスクが2倍になるというデータもあり、最近の免許返納を煽る報道には少し疑問を感じています。正しい運転技術をなるべく長く維持して、いつまでも安全に運転して活力ある豊かな生活を送ってもらえたらと思います」という言葉があり、非常に印象的に感じた。
運転は体全体を使うことだけに個人差が非常に大きく、免許返納を考えなければならないケースもあるにせよ、トレーニングなどにより技術を維持することで可能な限り運転を続けられるようにするというのも重要な取り組みに感じた。
また参加者に話を聞くと、ドライビングポジションの重要性を再認識したという声も多く、それだけでもこのイベントの意義は非常に大きいと言えるだろう。
なおスバルでは、今後の展開も前向きに考えているとのことなので、こういったイベントが広がり、多くの人が体験できるようになる日を心待ちにしたい。
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