これまで日本にはたくさんのクルマが生まれては消えていった。そのなかには、「珍車」などと呼ばれ、現代でも面白おかしく語られているモデルもある。しかし、それらのクルマが試金石となったことで、数々の名車が生まれたと言っても過言ではない。
当連載では、これら「珍車」と呼ばれた伝説のクルマや技術などをピックアップし、その特徴を解説しつつ、日本の自動車文化を豊かにしてくれたことへの感謝と「愛」を語っていく。今回は、カジュアルにクルマを楽しめた時代の扱いやすい2ドアモデル、ルキノクーペを取り上げる。
文/フォッケウルフ、写真/日産
ファッション感覚で乗れるサニー由来の2ドアクーペ
2ドアクーペの選択肢が激減して今や新車で買える2ドアクーペは、国産に絞ると極めて少数なうえ、いずれも車両価格が高額。100万円から200万円台で買える2ドアクーペはわずかに3台である。
しかし今から30年以上前、スポーツカーが全盛だった1990年代には、本格派だけでなく今回クローズアップする「ルキノクーペ」のようなファッション感覚でカジュアルに乗れるお手頃な2ドアクーペが若者を中心にウケていた。
ルキノの登場は1994年5月。トヨタカローラとともに日本のモータリゼーションを牽引してきたサニーの派生モデルとしてラインナップに加わる。サニー系のスペシャルティクーペとして人気を集めていたNXクーペの後継モデルと位置付けられ、サニーをベースにしながら、スタイリッシュな2ドアクーペに仕上げられていた。車名のルキノは、古代ギリシャ神話に出てくる誕生を司る女神のルキナ(Lucina)に由来する造語である。
セダンのサニー、および兄弟車の関係にあったパルサーと多くの部分を共有しながら、スタイルはボディ後半部分のデザインをルキノ専用とすることで2ドアクーペ化。フロントのまわりのデザインは、2ドアクーペにしてはコンサバティブな印象を与える。
【画像ギャラリー】リーズナブルな価格設定で 若者をメインターゲットとしたルキノクーペの写真をもっと見る!(6枚)画像ギャラリーコンサバなスタイルで使い勝手のよさが際立つ
そんなルキノのセールスポイントは、2ドアクーペらしいスポーティさに加え、2535mmというロングホイールベースによって後席に大人2人が乗っても窮屈感のないゆとりある室内空間を実現したこと。
走りの面ではエンジンの効率向上やボディの空気抵抗低減などにより、マーチ並みの低燃費。さらに、ロングホイールベースにも関わらず、最小回転半径を4.6mに抑えて小回りの効く、運転しやすいクルマに仕上げていることが挙げられている。一見するとスポーツカーのようでも、走行性能だけでなく快適性や居住性を重視した、いわゆるスペシャルティカーに分類されていた。
全長4285mm、全幅1690mm、全高1375mmというコンパクトなボディサイズとしながら、ホイールベースは2535mmと長めに設定。駆動方式をFFとしたことによる床面の低さというメリットも相まって、室内は2ドアクーペにしてはかなり広い。この時代に隆盛を極めたコンパクトなスペシャルティカーがそうだったように、乗車定員5名がしっかりと乗れて、日常の足として十分な実用性を有していた。
ラインナップは1.5Lエンジンを搭載したグレードが1500MM、1500GG、1500GG タイプSの3タイプと、最上級グレードとして1.8Lエンジンを搭載した1800SSという計4タイプを用意した。いずれのエンジンにもトランスミッションは5速MTおよびオーバードライブ付き4速ATが設定された。駆動方式はFFのみで4WDは設定されていない。
車両価格がリーズナブルだったことも注目を集めた要因のひとつ。エントリーグレードの1500MMが88万7000円(5速MT)という、今では考えられないほどお手頃価格だった。現在の物価が30年前に比べて約1.5倍以上上昇していることを鑑みても、100万円を下まわる値付けされていたことには驚かされる。
このような価格でスペシャルティカーが買えるという事実に驚きつつも、「若者をターゲットに……」と提言しながら、到底手が届かない価格設定になっているクルマがほとんどである現代のクルマ市場が、いかに若者軽視であるかを実感させる。
もちろん、1990年代よりもクルマに搭載される技術は複雑になり、装備が充実していることは事実だが、それにしても当時は若者が積極的に購入できるクルマは多かったし、メーカーもそうしたクルマの開発に注力して多くの選択肢を揃えていた。
【画像ギャラリー】リーズナブルな価格設定で 若者をメインターゲットとしたルキノクーペの写真をもっと見る!(6枚)画像ギャラリー








コメント
コメントの使い方これも、「失われた30年」の象徴ですね
トヨタがプリウスに傾注したのは良かったが
クルマの「遊び心」が低調だった