レーシングカーの空力技術とカーボン技術が、音楽の世界へ――。童夢がイタリアの名門カロッツェリア「ザガート」と手を組み、世界に一つだけのカーボン製チェロケースを製作。モータースポーツとクラシック音楽、異なる美学が融合した“機能美の結晶”が誕生した。
文:ベストカーWeb編集部/画像:PRTimes
レーシング魂が息づく、世界でただひとつのチェロケース
レーシングカーとチェロケース――一見、まったく異なる分野のように思える。しかし両者に共通するのは、「精密な構造設計」「素材へのこだわり」「造形の美」である。
2025年10月、滋賀県米原市の株式会社童夢が発表した特別プロジェクトは、まさにこの3つを極めた“異業種融合の象徴”といえるだろう。
このチェロケースは、国内外で活躍する若手チェリスト・柴田花音さんのために製作された、フルカーボン製の特別仕様モデル。デザインを手掛けたのは、イタリア・ミラノの名門カロッツェリアZagato(ザガート)のチーフデザイナー・原田則彦氏。レーシングスピリットとイタリアンデザインが見事に融合している。
軽く、強く、美しい──童夢の設計思想を音楽へ
童夢が培ってきたカーボンコンポジットの技術は、かつてル・マン24時間レースなどを戦ったマシン「童夢ZERO」などで鍛え上げられてきた。その技術を、今回は300年以上の歴史を持つチェロ「Giovanni Grancino(1694年製)」を守るために応用。
ケースはモノコック構造を採用し、軽量かつ高剛性を両立。内部はイタリア製シルク素材でキルト加工され、弓を4本収納できるという実用性も備える。ステアリングを模した取っ手、レーシングカーのシートベルトを使ったショルダーストラップなど、細部にまで“レーシングDNA”が息づく。
設計を担当した童夢エンジニアの天澤天二郎氏は、自身もヴァイオリンを演奏する音楽愛好家。レースの現場で培った構造解析技術と、楽器への深い理解を融合させた“異色のエンジニア”である。彼の手によって、チェロを守る「外骨格」としての理想形が実現した。
ザガート流の造形美──緊張感と流麗さの共存
原田則彦氏が語るデザインテーマは「流れる稜線と緊張感のある面構成」。上下に走るラインには、豊かな低音から高音へと移ろう音の表情を象徴する“角アール”が施されている。
この技法は、フェラーリやアルファロメオなどイタリアの名車を手がける際のデザイン手法と同じ。まさに「高性能スポーツカーを思わせるチェロケース」と言える。
柴田花音さんは、実際に半年間このケースを使い続け、「圧倒的な安心感と存在感」を語る。空港や街中でも注目を集め、音楽家としてのアイデンティティを支える“相棒”になったという。
「ステアリングは車を操るもの、シートベルトは命を守るもの。その二つが組み込まれたケースが、私の楽器を守ってくれることに深い意味を感じます」(柴田花音さん)
モータースポーツの技術が、文化を支える
童夢がこのプロジェクトで示したのは、「レーシング技術が文化を支える未来」だ。カーボンやモノコック構造など、モータースポーツで磨かれた技術が、音楽という伝統文化の“守り”となる。これは自動車産業における技術転用の新たな可能性でもある。
童夢は本プロジェクトを「構造が語る美、技術が支える文化」と表現する。軽さ、強さ、美しさを極めたモノづくりの精神が、今後はクルマだけでなく、芸術や日常の中にも広がっていくかもしれない。
受注生産にも対応予定とのことで、まさにレーシングチームが手がける“アートピース”として、世界中の音楽家から注目を集めることになりそうだ。











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