シビックはもっと評価されるべきじゃない!? いいクルマなのに販売台数が結びつかない永遠のパラドックスを解明

必要なのはユーザーを納得させるエッセンス

現行フィットもいいクルマなのは間違いないが、個性という面ではライバルに分がある。
現行フィットもいいクルマなのは間違いないが、個性という面ではライバルに分がある。

 例えば同じホンダでも、ホンダフィットは機能性や居住性、使い勝手では極めて優秀なクルマだ。しかしデザイン面で平凡という印象を持たれたことが販売面に少なからず影響しているように思う。逆に、多少実用性に難があっても、デザインだけで市場を動かしてしまう車も存在する。

 近年のテスラなどは象徴的だろう。テスラの車両は、従来型自動車メーカーのような緻密な内装品質や、細かな作り込みで勝負しているわけではない。しかし、未来的なコクピット、大胆に簡略化された操作系、EVならの加速性能など、新しい世界観を視覚的に提示することに成功している。つまり、乗る前から欲しくなるのである。これは非常に重要なことだ。第一印象で格好悪い、魅力を感じないと思われたクルマは、後から評価を覆すことが極めて難しい。想像を絶する低燃費や、驚異的な実用性、あるいは圧倒的な走行性能でもない限り、人の第一印象は簡単には変わらない。

現行シビックはパッと見た時の強烈さよりも、乗っていく中で良さがわかる方向に振っていることも影響していそうだ。
現行シビックはパッと見た時の強烈さよりも、乗っていく中で良さがわかる方向に振っていることも影響していそうだ。

 また、販売現場の力も無視できない。近年、自動車販売の現場では説明員は多くいても、クルマを語れる営業マンは減っているように感じる。本来、自動車営業とは単なるセールスマンではない。そのクルマの魅力だけでなく、競合車種との違いや市場全体の動向、ユーザーのライフスタイルまで理解したうえで最適な提案を行う存在であるべきだ。例えば、現行シビックを検討しているユーザーに対して、このクルマの操縦安定性がなぜ優れているのか、欧州車的な高速巡航性能をなぜ実現できているのか、を説明できる営業はどれだけいるだろうか。あるいは、5年後にどういう価値を持つのかということまで語れる営業はいるだろうか。

クルマは見ただけでは伝わらないことも多々あるため、いかに言語化するのかも販売においては重要だ。
クルマは見ただけでは伝わらないことも多々あるため、いかに言語化するのかも販売においては重要だ。

 クルマの魅力というのは、スペック表だけでは伝わらない。数字に現れない部分を言語化し、ユーザーの価値観に結びつける力が必要になる。そして、その役割を担うのが本来の販売現場なはずだ。評論家の役割も同様。ユーザーは自分が信頼する評論家やジャーナリストの記事を通じて、自分に合うクルマかどうかを判断している。つまり評論は単に性能を点数化する作業ではない。そのクルマが、どのような価値観を持つ人間にとって満足感を満たせるかを提示するのである。

価値観の変化に対応できる柔軟さ

クルマへの価値観も多様化しているため、自分の価値観を持つことが大切だ。
クルマへの価値観も多様化しているため、自分の価値観を持つことが大切だ。

 現代の自動車市場では、クルマに求められる価値が極端に多様化している。ある人にとっては燃費こそが最重要である。ある人にとってはデザインがすべてかもしれない。また別の人にとっては運転支援性能やブランドイメージが最優先になる。「ベスモ(ベストモータリング)待ち」と言われた時代。ベスモの筑波サーキットでのラップタイムやバトルの結果が購入意欲を左右した時代もあった。つまり、万人にとっての名車という概念そのものが、すでに成立しにくくなっているのだ。

 重要なのは自分にとって本当に価値のあるクルマを見抜く力だ。SNSやネット上ではメーカー不祥事や炎上騒動によって一瞬でブランドイメージが崩壊することもある。しかし、本来はそうした情報の奔流に流されすぎてはいけない。いいものはいい。駄目なものは駄目。自分に必要な性能とは何か。自分がクルマに何を求めるのか。その基準を持つことが大切なのだ。

これからの時代はいかに価値を丁寧に伝えられるかどうかが重要になりそうだ。
これからの時代はいかに価値を丁寧に伝えられるかどうかが重要になりそうだ。

 自動車は、家に次ぐ高額商品と言われて久しい。そして今や、一家に一台ではなく、一人に一台という時代に変化した。それだけに、クルマ選びはより個人的で、より価値観に直結する行為になっている。そう考えると、「いいクルマなのに売れない」という現象は、必ずしもクルマそのものの問題ではないのかもしれない。むしろ、その価値を正しく伝えられていないという問題ではないか。現行シビックは間違いなく優れたクルマである。しかし、その魅力をユーザーへ十分に届けられているかと言えば、課題が残る。

 販売現場、ブランド戦略、価格設定、デザイン訴求、そして情報発信などといった総合力こそが現代の自動車市場では問われている。メーカーが本当に危惧すべきなのはクルマの完成度だけではない。完成度の高いクルマをユーザーに正しく認識してもらえないという現実そのではないだろうか。

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