トヨタは囲い込まない!? 狙うのは各メーカーが参加できる新しい仕組み
さらに興味深いのは、アリーンの構想がトヨタ車だけに閉じたものではないことだ。今回の戦略では、特定企業がハードウェアからソフトウェアまでを一体的に支配する「垂直統合」とは異なる道を模索している。
比較対象として挙げられるのが、中国のHUAWEI(ファーウェイ)のような垂直統合型のビジネスモデルだ。ハードとソフトを一体開発すれば、システム全体を最適化できるという強みがある。
ただし、その仕組みを他の自動車メーカーが幅広く採用するには、企業ごとの開発思想や独自技術、取引関係などが障壁になる可能性もある。
そこでトヨタが狙うのが、アリーンを共通基盤とし、各自動車メーカーがその上で独自のアプリケーションを開発する水平分業型のエコシステムだ。トヨタがソフトウェアの基盤を整え、半導体メーカーがSoCを供給し、各自動車メーカーが自社のクルマらしさを追求する。
アリーンが業界の共通基盤として広がれば、トヨタが自社のために開発した技術が、自動車産業全体の開発効率を変える可能性もある。単なるソフトウェア開発ツールではなく、産業構造そのものを変える挑戦というわけだ。
真の狙いはクルマだけじゃない! 工場、通信、ロボットへ拡大か
今回の構想でさらに注目すべきポイントがある。それは、アリーンの活用領域が自動車だけにとどまらないということだ。高性能なSoCを必要とするのはクルマだけではない。
工場の生産設備、自律的に動くロボット、高度な情報処理を行う通信システムなど、さまざまな産業機器が半導体に支えられている。そして、これらの分野でも半導体の更新とシステム開発のタイミングが一致しないという問題が存在する。
そこで、アリーンで培ったミドルレイヤー技術を応用できればどうなるか。半導体の変更に伴う適合作業を効率化し、機器メーカーが自社の機能開発に集中できる環境を構築できるかもしれない。
この戦略では、半導体メーカーとの協調関係も重要になる。新しいSoCを多くの企業が採用しやすくなれば、半導体メーカーは市場を拡大できる。一方、アリーンを提供する側は、より多くの機器や産業で共通基盤を利用してもらえる。
つまり、自動車の世界で生まれた技術を、より巨大なものづくり市場へ広げていこうという構想なのである。
ここで思い出したいのが、トヨタの強みであるTPS(トヨタ生産方式)だ。
TPSは製造工程のムダを排除し、生産効率と品質を高めてきたトヨタのものづくりの根幹である。今回のアリーン構想にも、どこか共通する思想が見える。
従来はメーカーごと、車種ごと、半導体ごとに繰り返されていた適合作業。その重複を減らし、共通化できる部分は共通化する。現場の開発リソースを、もっと価値の高い仕事へ振り向ける。
これはまさに、ソフトウェア時代のものづくり改革ともいえる。クルマの生産で培った経験や信頼を、半導体やソフトウェアの世界に広げようとしているわけだ。
これまで、アリーンを運転支援やエンタメといったクルマの機能を充実させてくれるものとばかり、思っていたが、アリーンはずっと大きな可能性を持つということだ。
エンジンやハイブリッド技術で世界をリードしてきたトヨタが、今度はソフトウェアと半導体の世界で新たな役割を担おうとしている。
「クルマをつくる会社」から「ものづくりの仕組みを変える会社」へ。
アリーンは、その転換を象徴する技術になるのかもしれない。今後の展開から目が離せないぞ!
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