■新型ヤリスになって大幅向上したクルマとしての「質」
逆に内装の質はヤリスが高い。ヴィッツの発売は2010年で、2008年に生じたリーマンショック(世界的な経済不況)の影響を受けた。そのために内装や静粛性は、2005年に登場した2代目ヴィッツを下まわっていた。
特にヴィッツハイブリッドは、モーターのみの駆動で発進した後、エンジンが始動するとノイズが一気に高まった。販売店からは「先代型のお客様に新型ヴィッツへの乗り替えを提案できない」という悲痛な意見まで聞かれた。
この後、ヴィッツは複数回にわたって内装の質とノイズを改善したが、改良で対応できる範囲には限界がある。その意味でヤリスは、エンジンやハイブリッドからプラットフォームまですべてを一新して、快適性を向上させた。内装の造りを含めて、ヤリスが上質に感じる。
ヤリスで売れ筋になる直列3気筒1.5Lのノーマルエンジンとハイブリッドを、ヴィッツの直列4気筒1.3Lや1.5Lハイブリッドと比べると、動力性能はヤリスが上まわる。特にノーマルエンジンは、ヤリスでは排気量が200cc増えた影響で、実用回転域の駆動力が向上した。1400回転付近でも充分な性能が発揮されて運転しやすい。
ハイブリッドもヴィッツに比べると、モーターの駆動力に余裕が生じた。アクセルペダルを軽く踏みながら走る時は、モーターの駆動力により、排気量が1.7L前後に拡大した印象がある。ヤリスのエンジンはすべて3気筒になったが、動力性能には余裕が生じた。
■ヴィッツから新型ヤリスへ! 変化した設計思想
運転感覚で大きく異なるのは走行安定性だ。ヴィッツでは後輪の接地性を高めて車両の挙動を安定させるため、操舵に対する反応が鈍めだった。峠道などを走ると旋回軌跡を拡大させやすく、危険を避けた後の安定性は高いが、避け切れないことが想定された。
その点でヤリスは、操舵に対する車両の反応が正確で、4輪の接地性も高い。危険を避けた上で、その後の挙動も安定している。プラットフォームの刷新により、車両の安定性が総合的に向上した。
このような挙動を示すのは、足まわりが正確に作動している結果だから、乗り心地もヴィッツからヤリスになって向上した。ヴィッツに比べると細かなデコボコを乗員に伝えにくく、突き上げ感も抑えている。
ただし、ヤリスの乗り心地がすべて快適なわけではない。14インチタイヤは転がり抵抗を抑えた燃費重視で、指定空気圧も前輪が250kPa、後輪は240kPaと高い。そのために乗り心地が硬く感じられる。
最も快適なのは15インチで、次は16インチだ。ユーザーによっては、引き締まり感を伴う16インチを好む場合もある。ヤリスではタイヤによって乗り心地が大きく変わるので注意したい。
■安全装備の充実などで買い得感もヤリスになって向上
ヤリスとヴィッツでは燃費も大きく異なる。ヤリスは1.5Lノーマルエンジンを搭載する「G」が21.4km/L、Zは21.6km/Lだ。ヤリスハイブリッドは、「G」が35.8km/L、「Z」は35.4km/Lになる。ヴィッツはJC08モード燃費だから直接比較はできないが、ヤリスハイブリッドの燃費数値は、国産乗用車では最高峰だ。
このほか進化の著しい安全装備も、ヤリスでは大幅に充実した。衝突被害軽減ブレーキは、昼夜の歩行者に加えて昼間の自転車も検知する。右左折時に、対向車や横断歩道上の歩行者に反応する機能も加わった。
衝突被害軽減ブレーキの応用技術として、車間距離を自動制御可能なクルーズコントロールなど、運転支援機能も充実している。衝突被害軽減ブレーキと運転支援機能の進化は特に著しい。
ヤリスに1.5Lのノーマルエンジンを搭載する「G」の価格は175万6000円だ。「ハイブリッドG」は213万円になる。
ヴィッツと同等のグレード同士で比べると、ヤリスは約25万円高いが、先進の安全装備に加えてディスプレイオーディオや通信機能も標準装着される。機能や装備と価格のバランスでは、今のヤリスが明らかに買い得だ。
ヤリスは競争の激しいコンパクトカーとあって、進化の度合いが大きい。後席や荷室の広さに不満がなければ、推奨度の高い車種となっている。
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