クルマの作り方 徹底解明 〜新車「開発」はどうやって進められる!?〜

実車作りは1年半~2年

 こうして企画の概要がまとめ上げられ、開発予算の算定ができ上がると、経営陣に上げられ承認を得る。当然、ここで予算に対するNGが出て、練り直しということもある。承認=正式なプロジェクトのゴーサインとなり、予算も付いて開発部門が本格的に動き出すことになる。

 開発予算とひとくちに言うが、エンジンやトランスミッションまで新規に開発し、プラットフォームも一から開発する新規投入車ともなると、ザッと1000億円。エンジン、トランスミッションを現行型からキャリーオーバーする「スキンチェンジ」と呼ばれるフルモデルチェンジの場合なら、300億~500億円となる。

 エンジンやトランスミッション、あるいはプラットフォームの新規開発といっても、このプロジェクトスタートから一斉スタートですべてが始まるというものではない。前述のように各メーカーには先行開発部門があり、新型車開発プロジェクトとは別の先行開発予算間の範疇で新技術の開発を行っている。エンジンなどは、この先行開発チームがある程度進めていた技術を、新型車開発プロジェクトチームがいわば「買い取る」かたちで使うのだ。

 先行開発チームにしても、この『買い取り』がなければ、永遠に自分たちの仕事はビジネスにはつながらないので、社内では先行開発チームのプレゼンも積極的に実施され、こうした情報収集もCEの仕事となり、情報収集能力に長けたCEが仕事のできるCEとなる。これらを取りまとめて設計部門に具体的な図面を依頼して試作モデルが作られる。

 エンジンを一新するフルモデルチェンジの場合なら、現行型のプラットフォームを改造し、先行開発チームから買い取ったエンジンやトランスミッションなどを搭載した開発試作車を作るのがこの時期。

 いよいよ「新車開発」現場らしくなってきたが、これがおおよそ発表日の2~1年半前あたり。まだデザインは確定していない場合がほとんどで、擬装を施した試験車の写真がスクープなどで掲載されるが、それがこの時期。スキンチェンジの場合だと、この過程は不要なので、いきなりデザイン完成後のテストとなる。

試作テストの時間は大幅に短縮された

 20年前だったら、この開発試作車テストが最も重要で、設計屋さんの経験から最適と思われる試作車を作り、走らせては不具合を洗い出し、設計変更してはテストをして……という実験が実施されていた。

 しかし、現在はコンピュータによるシミュレーションが高精度となっていて、構造や強度、衝突テストに至るまでシミュレーションで高精度な設計ができるようになってきた。新規投入車種でもない限り、開発試作車は1回、最終確認のために作る程度でよくなったため、開発期間が大幅に短縮されたという。

 この時期に、外部の部品メーカーに発注するパーツの仕様や設計が完成し、具体的な発注となる。逆に、パーツメーカーから新技術の売り込みなどもあり、採用が検討されるのもこの時期。例えば、LEDライトなどは、ランプメーカーの新技術として自動車メーカーに売り込まれたものだ。

 デザインもしかりで、CADでデザインのほとんどはできてしまい、モックアップは最終確認程度。インパネの形状などは、最近では3Dプリンターを使って簡易に検討用の試作品が作れるので、開発がスピーディになるとともに、コスト的にも圧縮することが可能となった。

 インパネの形状は、微妙な角度などにより、例えばエアコンの風の出方が意図しないものとなったりすることが多く、ある程度進んでしまった段階でこれを直すとなると多額の費用と時間が必要だったのだ。

 こうして各部の検討が一段落すると、生産部門に移管され、今度は工場での生産性の確認や、それに伴う設計変更、デザイン変更などの作業に入る。これが発表のおおよそ1年前。メーカーによっては開発部門の設計担当が工場と連携してこの工程を担当するが、メーカーによっては工場側の生産部門が以降の工程を担当するケースもある。

 開発部門ではベストと判断した設計も、生産性が悪ければここで修正されるし、デザインも変更されるケースも多い。こうして生産性の確認とともに生産ラインの構築が進められ、量産試作車がラインオフする。フロントマスクに覆面をしたテスト車や、渦巻き模様のボディペイントを施したテスト車両がニュルを走っているシーンなどが撮影されているが、この段階のテスト車両である。

3 のコピー

ゼブラ模様の擬装ペインティングを施してニュルを走る新型シビックタイプRのテスト車両。

 この段階は、新車開発ではもう最終段階といえる状況。市販開始まで1年を切っていると思われる。

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