【ホンダ 英工場閉鎖の衝撃】 今後国産メーカーの戦略にどんな影響がある!?

■真意の見えないホンダ戦略

 ホンダでは過去にも経営上の重要案件であたかも「外的要因」が理由になるような紛らわしいタイミングで決断を下した例は少なくない。

 例えば、2008年秋のリーマン・ショックを契機に、直後に「F1レース」からの撤退や高級車ブランド「アキュラ」の日本導入の断念、さらに、新設の寄居工場(埼玉県)の生産開始の延期などを相次いで決断した。

 金融危機の影響で自動車産業を取り巻く環境が急速に悪化し、当時の福井威夫社長も「まったく先が見えない」と唇をかみしめたほどの厳しい状況だったことも事実。

 だが、F1の撤退にしても1980年代から1990年代にかけて連続で優勝を重ねた全盛期とは様変わりして表彰台の真ん中に立つ回数が極端に減ったことから技術面でのパワー不足の問題も浮上。

 社内でも“金喰い虫”などと批判する声も囁かれていた。撤退の理由は金融危機の影響にとどまらないとの見方もあったが、後継の伊東孝紳社長時代には7年ぶりに復帰を決断することで複合的なものを一蹴、真相はヤブのなかに葬られたままである。

 今回のホンダの英工場閉鎖も離脱協定案が英議会で可決される見通しが立っていない最中での“英断”であり、記者会見でも海外メディアの記者から「経営者はみんなブレグジットのリスクを考えているのに、何故あえて考慮しなかったのか」との質問も飛び出したほどである。

 確かにホンダの英国からの生産撤退は固有のお家の事情から自らの実力を見極めながらの決断と見受けられるが、英国経済にとっては失業問題などを抱えて大きな打撃となる。

 自前主義で「我が道を行く」のがホンダの経営哲学というが、周囲の空気を読まずにEU離脱を巡る混乱状態に紛れての突然の発表では“便乗離脱”と疑われても仕方がないだろう。

ユーロトンネルの正式名称は英仏海峡トンネル。イギリスとフランスを結ぶ全長50.49㎞にも達する海底トンネルで、クルマは車運搬用シャトル列車に載せて通行することになる。EU離脱となれば、フランスとの国境を越える際の入国、通関手続きが面倒になる

■脱英国で生じる今後の壁とは? 各メーカーの欧州販売への影響はどうなる?

 EUからの離脱問題を巡る混乱が深まるなか、英国では欧州での販売不振という「お家の事情」で生産撤退を表明したホンダ以外にも、自動車メーカーの生産休止や計画見直しなどの動きが相次いでいる。

 その背景にあるのは、3月末に離脱が迫っているにもかかわらず、メイ首相が率いる英政府は離脱の条件などについて議会の承認を得るめどが明確になっていないからだ(註:冒頭でも解説した通り、現時点では10月までの離脱期限延長が決まっている)。

 このため、「6月末まで」の離脱延期を求める可能性も強まってきてはいるものの、土壇場になっても離脱後に英国がEUをはじめ、日本などの他国とどんな通商関係を締結するのかが相変わらず見通せない状況にある。

 加えて、「合意なき離脱」に陥れば、英国からEU域内の自動車輸出に対しては世界貿易機関(WTO)の規定に基づき、関税を即座にかけられることになりかねない。

ブレグジット(Brexit)は「British」と「exit」を合わせた造語。離脱にともない必要となるべき取り決めがなにもない状態でイギリスがEUを離れれば、EU内のみならず日本企業・国内にも大きな影響を及ぼす

 例えば、日産自動車の欧州での新車販売台数は年間70万台弱だが、このうち、英国に持つ年産50万台規模の工場から8割程度を欧州向けに輸出している。また、欧州での年間販売が100万台の大台にあと一歩に迫るなど、欧州販売が好調なトヨタ自動車では3割を日本から輸出し、残りの多くを、英国などEU域内から供給している。

 トヨタの英国工場では年産20万台レベルで、日産よりは小規模だが、それでも製造しているうちの7割以上がEU向けの輸出に振り分けられている。

 通常、EUへ自動車を輸出する場合は、10%の関税が課せられるが、EU域内では関税がかからないため、現在英国からEUへの輸出は無税である。

 ところが、欧州では、排ガス不正問題などでディーゼル車の需要が頭打ちで、トヨタのお家芸のハイブリッド車の人気が高まりつつあるが、必ずしも日本車のブランド力が高いとは言い切れない。

 英国のEU離脱で、ドイツやイタリアなどの欧州各国がトヨタや日産ブランドなどの英国生産車にも関税をかけるようになれば、価格競争力が低下するのは火を見るよりも明らかだ。

 しかも、英国とフランス間を結ぶドーバー海峡をつなぐユーロトンネルでは、新たに通関手続きのための“関所”が設けられることになれば交通網は大渋滞となり、陸送による部品の供給が途絶える恐れもある。

 在庫を最小限に抑えるジャスト・イン・タイムの物流オペレーションへの支障による生産活動の停止や、恒常的な物流・生産コスト増による事業収益の悪化、さらに販売価格の見直しなど、企業活動への影響は甚大になることが予想される。

 英国での現地生産のメリットはほとんどなくなるため、ホンダが下した“英断”のように、新たな投資も避けざるを得なくなる。

 折しも、日本とEUのEPA(経済連携協定)交渉では、EUが課す10%の乗用車関税が7年で撤廃されることが決まり、日本の自動車メーカーはEU向け輸出体制の見直しを含めた検討に入っている。EU離脱後の英国とEUの貿易協定交渉の行方をにらみながら、英国以外のEU域内の工場での増産体制の強化とともに、日本から輸出を増やすなどの方針転換で新車の販売力を高めるしかないだろう。

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