先日読者から「なぜ軽自動車にはディーゼルエンジン搭載車がないのでしょう!?」という質問が寄せられた。
うーん確かに……。さらにこの質問の続きは
「660㏄のディーゼルなら、燃費だって40㎞/ℓを超えるものができるのではないだろうか!?」
と続けられていた。なるほどなるほど……。
たしかに自動車用のディーゼルエンジンという目で見ていくと、 小排気量のものは少なく、基本的には大排気量が中心だ。
マツダがデミオ用に開発した1.5ℓディーゼルターボは世界的に見てもかなり小排気量ディーゼルという位置付けとなっている。
なにか技術的な障害があるのだろうか!?
■スズキが800cc 2気筒ディーゼルターボを開発
と思っていたら、去る6月3日にスズキが「0.8ℓ、2気筒ディーゼルエンジンを開発」というニュースが発表されていたことを思い出した。
このエンジン、ボア×ストローク=77.0×85.1㎜の直列2気筒。総排気量は793㏄のディーゼルターボとなり、乗用車用ディーゼルエンジンとしては世界最小排気量。ちなみにパワースペックはというと、最高出力46.6ps/3500rpm、最大トルク12.7㎏m/2000rpmとなっている。
……ということは、あと140㏄排気量を小さくすれば、日本の軽自動車の規格にバッチリ対応できるじゃありませんか!!
でもスズキとしては「インド市場に向けたエンジンで、国内投入の計画はありません」とつれない対応。「排気量を縮小して軽自動車用にするという計画は、聞いたこともないですよ〜」とこれは非公式なコメントだが、そんなことも言っていた。
でも、パワースペックを見るとなかなか「現実的」だと思うのだが……。
■小排気量との相性がよくないディーゼル
そもそもディーゼルエンジンは小排気量との相性がよくないという特質があるのだ。1気筒あたりの排気量が小さいと、どうしても燃焼室の温度が奪われて低くなってしまう。それはすなわち熱効率が低くなるということ。
エンジンはいかに熱効率を高めていくかが開発のキーポイントなので、小排気量ディーゼルはこれに逆行してしまうことになる。一般的には気筒あたりの排気量500㏄あたりが最適と言われており、これはつまり4気筒で総排気量2ℓになる。
デミオやCX-3の1.5ℓは気筒あたりの排気量が375㏄と小さく、このあたりが限界点と見られていたのだ。
過去に目を向けると、1983年1月にダイハツがシャレード用に開発したCL型ディーゼルエンジンが、当時世界最小排気量と言われていた。
直列3気筒で総排気量は993㏄。気筒あたりの排気量は331㏄となり、デミオのSKYACTIV-Dよりも小排気量だ。圧縮比は21.5と高く高効率を狙っていることが読み取れる。
このCL型ディーゼルはNAで38ps/4800rpm、6.3㎏m/3500rpmを発揮していた。さらに翌’84年8月には圧縮比21.5のままターボ化され50ps/4800rpm、9.3㎏m/2900rpmにパワーアップ。
このCL型は気筒あたり331㏄なので、このエンジンを2気筒にすればほぼ660㏄となり、軽自動車用ディーゼルができそうだ。
このダイハツCL型が歴史的にも世界最小乗用車用ディーゼルエンジンだろうと思っていたら……、なんと、ヤンマーが360㏄V型2気筒ディーゼルエンジンを軽トラックに搭載した「ヤンマー・ポニー」を’60年頃に市販していたという事実に行き当たった。
1年半程度の短期間のみ販売されていたようで、総生産台数は600台程度ということなのでほぼ「マボロシ」の存在。最高出力は9psにとどまり、同時代の360㏄ガソリンエンジンと比べて非力だったことは否めない。
やはりそのあたりがネックとなって早々に撤退してしまったのだろう。だがしかし「大きなものから小さなものまで、動かす力だヤンマーディーゼル」さすがです!!
このヤンマー、もともと社名が『ヤンマーディーゼル』といっただけありディーゼルエンジンに豊富なノウハウを持っており、現在でも農機や除雪機用汎用エンジンとして多様なディーゼルエンジンをラインアップしている。
ちなみにヤンマーが現在市販しているディーゼルエンジンの最小排気量は「L70V型」の空冷単気筒OHV4サイクル320㏄(ボア×ストローク=78.0×67.0㎜)。最高出力5.9ps/3600rpm、最大トルク6.5㎏m/3600rpmというスペック。やはり1気筒320㏄はある。このLVシリーズには435㏄の「L100V」がありこちらは8.4ps/3600rpm、9.3㎏m/3600rpmとなる。
またヤンマーには水冷のTNVシリーズもあり、2気筒の2TNV70は570㏄で13.6ps、3気筒の3TNV70は850㏄で21.8psを発揮する。
■やはり最大のネックは振動対策
ヤンマーの小排気量ディーゼルエンジンは、直噴化であるとか、4バルブ化など最先端の技術が投入されているが、農機用であったり産業機器用であるため、振動面での要求値が自動車用と比べて圧倒的に低いという事実がある。
例えば冒頭で紹介したスズキの2気筒800㏄ディーゼルターボだが、ディーゼルとしては比較的低圧縮の15.1まで圧縮比を低めることなどで振動対策をしているうえ、フライホイールの最適化などで振動軽減を図っているものの、スズキのエンジニアは「やはり、日本のユーザーにとって2気筒エンジンの振動や音は許容していただきにくい」と本音を漏らす。
いっぽうで上限660㏄で3気筒とするためには気筒あたり220㏄となり、熱効率面でのデメリットが大きくなってしまうため現実的ではない。熱効率が低下するということは、パワーも出ないし、なによりも燃費が低下してしまい、本末転倒なのだ。
ダイハツがイース・テクノロジーの切り札として開発しモーターショーで技術展示までした軽自動車用2気筒ガソリンターボエンジンがいまだに市販車に搭載されていないのも、燃費やパワースペックの問題ではなく、音や振動、ドライバビリティといったユーザーが気にするクォリティ面の要素が大きいという。
さて、そろそろ結論が見えてきた。
つまり、ディーゼルエンジンは1気筒あたりの排気量が350㏄程度を下回ると熱効率が低下して燃費が悪化する。上限660㏄の軽自動車だと2気筒にすればギリギリで実現できそうだが、今度は音や振動の面でユーザーが納得してくれないとメーカーは考える。
こうした問題点は、例えばバランサーシャフトを採用するとか、燃焼技術の改善など、時間とお金をかければ解決できるのだろうが、低価格での販売が必須の軽自動車用のエンジンで、過剰なコストをかけた開発は結局価格上昇につながりユーザーメリットとはならない。
自動車メーカーはこれらのバランスポイントを探りながら技術開発、新車企画をしているため、現状では軽自動車ディーゼルターボの実現は難しいという結論なのだ。
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