関税とTPPについて
いっぽうで米国の乗用車の関税は、現行で完成車に2.5%(トラックは25%)がかけられている。これに対し、日本は完成車の関税ゼロである。ちなみにカナダ6.1%、EU10%などの関税がかけられている。
トランプ氏の言う「TPPが国家主権を浸食する」という論理で破棄を主張するがオバマ政権で大筋合意しているTPPは、FTA(自由貿易協定)、EPA(経済連携協定)の拡大12カ国貿易協定である。
もちろん、TPPのメリット、デメリットの指摘はある。メリットとしては関税撤廃、引き下げによる貿易自由化とグローバル化推進。デメリットとしては海外からの安価な商品流入でデフレ化懸念や関税撤廃で自国産業へのダメージ(日本の農業)があげられている。
トランプ氏のTPPを破棄するという発言も米国内の雇用が奪われるという論理が先立っている。とくにNAFTA(北米自由貿易協定)によりメキシコに米国の雇用が奪われたことで人種差別的な暴言にも繋がる。
NAFTAは、米・カナダ・メキシコ間で成立しているもので北米自由貿易協定として原産地規制(部品現地調達率)もクリアーさせて北米市場での生産・供給を推進させた。
とくにメキシコは北米生産基地として米フォードや日本車も日産やマツダなどが積極的に展開している。
TPPについては、日本自動車産業として産業競争力向上につながることの期待やカナダなどの完成車関税の撤廃による輸出拡大や米国部品関税の撤廃で現地生産のコスト低減に繋がるとの見方を示している。
自動車に関する大筋合意点では、米国の乗用車関税2.5%は発効から約25年維持されるが米国への輸出部品のうち8割の品目の関税が即時撤廃されるという政治的な取り決めがなされている。
いずれにしてもTPPは、自動車に関しては自由貿易、グローバルの観点から経済連携の枠組みが築かれるステップとなるわけだが、トランプ氏や最近では対立候補のクリントン氏も米国内雇用政策面で「現時点で賛成できない」と選挙対策的発言を示しているのだ。
アメ車が売れない理由は日本にあり?
また、日本市場で米車が売れないのは「輸入車を不利にする規制など非関税障壁があるからだ」といった論理だが、まず日本の乗用完成車関税はゼロである。トランプ氏に限らず米国は日本自動車市場の閉鎖性を米車の売れない理由に挙げるがまったく根拠のないものである。
昨年、2015年の日本自動車市場における輸入車シェアは軽自動車を除きで約10%ある。これは欧州市場の約4%、中国市場の約5%と比較しても高いことがわかるし、日本の輸入車市場の80%以上が欧州車で米車は4%にとどまる。
今年初めに米フォードが年内中に日本市場からの撤退を発表した際にも日本市場の閉鎖性を指摘したが、その主張に裏付けはなく左ハンドルだけで日本市場開拓の努力に欠ける自らの姿勢が見えたに過ぎない。
こうしてみると、トランプ氏が米大統領になった場合の自動車産業政策の実現性だが、「強いアメリカの復活」には、自動車が米国の『聖域』でもあっただけに雇用面での影響も含め米自動車産業本格復活がイコールとする政策となるだろう。
かつての『日本車バッシング』から時代は変わったが、米国の聖域だった自動車産業において、経営破綻で一時、国有企業にもなったGMの復活に代表される米自動車産業とライバルの日本車に対する「いつか来た道」への懸念は米ナショナリズムが根底にある以上、続くことになる。
ただ、米自動車産業もGM、フォードの復活のいっぽうでクライスラーは伊フィアット傘下入りした。UAW(全米自動車労組)は民主党寄りでフォードはメキシコ問題でトランプ氏と確執の関係にある。
そこには必ずしも米デトロイト(自動車産業)はトランプ寄りではなく、またTPPも米議会の案件であるだけに、これまでのトランプ発言で破棄できるものでもない。つまり、自動車関連においての保護主義政策の具体的な道筋は見えないのが実態である。
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