数々の過激な発言で物議をかもしつつも、次期アメリカ大統領に当選したドナルド・トランプ氏。日本車叩きの数々の発言も見られたが、いったいトランプ大統領誕生後には日本をとりまく自動車市場はどうなってしまうのか?
大統領選真っ最中だった今年6月にベストカー本誌で掲載した、元日刊自動車新聞社代表取締役社長で、佃モビリティ総研代表の佃義夫氏の記事でふり返ってみるに聞いた。
文:佃義夫/写真:トヨタ、Ford
ベストカー7月26日号
日米貿易摩擦の再来?
「アメリカファースト」「偉大な米国の復活」を唱えるトランプ米大統領が実現すると、その経済政策とくに米経済の中核である自動車産業にも大きな影響を与えそうだ。
米国における経済格差とこれを是正できない政治への怒りを背景に「強気で過激な発言」で庶民の心をつかんだのが異端児のトランプ氏と言われる。
ポピュリズム(その場しのぎの人気取り政策)の典型的なケースでもありこれまでの発言を見るとかなり「支離滅裂」だが、その根底には米国第1への保護主義があり、かつて「クルマは国家なり」を自負した米自動車産業の本格復活への意図がありそうだ。
トランプ氏の出馬会見では「彼ら(日本)は、百万台以上の日本車を送ってくる。我々はどうだ? 最後に東京でシボレー(GM車)を見たのはいつだ? 存在しませんよ。彼らはいつもアメリカを打ち負かしてきた」と発言している。明らかに日本車叩きの発言であり実態無視の被害者意識を煽る計算がうかがえる。
また、為替政策についても日本を批判しており「日本の度重なる円安誘導のせいで友達は高いキャタピラーではなく、コマツのトラクターを購入した」「アメリカは日本と価格競争ができない。円安誘導では競争は不可能だ」と言う。
自動車は日本車各社が米現地生産を浸透させていることで批判ができず、建設機械で固有名詞を出してきたが、これも支離滅裂の発言である。
さらに「日本は石油の7割近くを湾岸地域に依存しているがその活動は米軍が守っている。日本は米軍に守られて石油を持ち帰ってアメリカの自動車メーカーを叩きのめしている」という発言を見ると、まさに何をか言わんやということになる。
これが「自動車(輸出)を使って経済大国になった日本に補助金(米軍駐留経費)を払い続けることはできない」にも繋がる。
一方でトランプ氏は日米など12カ国で大筋合意したTPP(環太平洋経済連携協定)の破棄を訴える。「貿易自由化で日本やメキシコに雇用を奪われた」と主張して経済格差に不満を募らせる低・中所得層の取り込みに成功してきた。
これが「日本から何百万台ものクルマがひっきりなしに輸入されてくる。アメリカは何を買わせたか? 貿易不均衡だ」の発言や「我々は日本に関税なしで何百万台ものクルマを売ることを許してきた。何とかしなければならない」
「メキシコに万里の長城の壁を作る。我々は日本を、メキシコを打ち負かす」と、過激さを増すのである。
発言内容を精査すべし
ここで問題を整理してみよう。まず、米国における自動車市場と産業構造の動向である。かつては世界の自動車大国であった米国だが、世界最大自動車市場の座は中国に譲ったものの世界第2位の市場を誇る。
とくにここへきて年間1700万~1800万台の市場規模に回復、米国のシェールガス展開も含め原油供給価格の安定化で大型車クラスの復活も目覚ましい。
日本車にとっても米国市場はグローバル戦略において重要な市場である。トヨタ、ホンダ、日産、スバルなど北米市場での収益は大きなウエイトを占める。
日本車としては過去の日米貿易摩擦を乗り越えて米国現地生産化を浸透させて来た。部品の現地生産進出も含めて米市民権を得て雇用面でも大きく貢献している。
つまり、日本からは一部の輸出はあるが、大半は現地生産による米市場への供給が日本車の実態である。日本車は米市場で約40%を占めているのだから、トランプ氏の言う「何百万台もの日本車が輸入されてくる」のは、1980年代頃の日本車輸出増加時の話であり、現状では当たらない。
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