BCP(Business Continuity Plan/事業継続計画)と物流データ
質疑ではBCPの話が早々に核心へ入った。佐藤恒治会長が繰り返したのは「ものづくり産業は、ものをつくり続けられる体制を作ることが一番大事なんです」という言葉だ。
どういうことかといえば、なにかの都合で重要部品が届かなかったり、足りなかったりすることで、工場が止まる。工場が止まれば効率と競争力が落ち、経済が削れる。
それはたとえば災害時。災害が起きるとまず物流にダメージが出る。そうした状況で、BCPを各社の個別の工場の復旧計画だけで閉じず、業界全体の復元力=供給力として捉え直すのが新体制のトーンである。
具体的にいうと、たとえば災害級の物流混乱が起きると、どの積み荷が誰の所有で、どこへ向かっているのかが見えなくなる。平時でさえトラックの積載率は約80%程度、荷下ろししたあと戻る便や別の場所へ向かう便は20~30%程度が平均だという。
こうした状況で、たとえば物流が途絶えた場所へ支援物資を入れようにも、現状「どれだけ入れられるか」のデータがない。
そこで必要になるのが「積み荷情報のデータプラットフォーム」だ。データを一元管理し、空き荷情報を共有することで、無駄な労力は劇的に減る。CO2削減にもつながる。
ただし難所もある。積み荷の所有権は、品目によってOEM・仕入先・第三者などバラバラで、情報の所在も散らばっている(「積み荷【情報】の所有権は誰にあるのか」も決まっていない)。だからこそ「意思を持った協調戦略として」、積み荷情報のプラットフォームを整え、最適物流や復旧オペレーションまで議論できる環境をつくるべきだ——ここに自工会が本気で入る意義がある。
競争と協調の線引き「同じ船」論
また、「新7つの課題」の中でも「最も難しいが逃げられない」とされたのが、サプライチェーンにおける協調領域の拡大(いわゆる標準化・共同化)だ。
部品調達や加工、いわゆるサプライヤー(ティア)との折衝、開発合戦や入札は、各メーカーが最も熾烈な競争を繰り広げている分野。ここで各メーカーが協力しあって部品の共用化を進めれば、大量受注が可能になり、部品単価が下がって国際競争力が上がる。部品メーカーも安定供給が可能になれば資金に余裕ができるし、長期的な開発リソースも注ぎ込みやすくなる。
できるならやるに越したことはないが、つい先日まで各社バチバチにやり合っていたジャンルで、本当にできるのか?
記者からの質問に対して、マイクを向けられた鈴木俊宏副会長(スズキ社長)は過去の共同開発の失敗談(「かつて某メーカーと部品の共有化について話し合ったが、灰皿しか共通化できなかった」とのこと。な…なるほど……)に触れつつ、「今はもうそう言っていられない」と断言。「やるしかないんですよ」と語る。
ここだけでも業界として共通化しスケールを確保しなければ立ち行かない、という現実がある。
この一連のやり取りに、イヴァン・エスピノーザ副会長(日産自動車社長)は「我々は同じ船に乗っている」と宣言。いま、世界が急速に変わり、ブロック化が進んでいる。だからこそ、各社が「自分の技術が上か下か」で争うだけでは産業そのものが持続できない、と危機感を語った。

競争は残すが、標準化や技術共有で守るべき領域がある。スケールがスピードを生み、コストと競争力を上げる——「これが、我々リーダーが共有するスピリットだ」と位置付けた。注目すべきは、こうした協調の議論を現場任せにせず、リーダーが前に出て決めるべきだと明言した点である。
さらに、半導体については「協調すること」の好事例が紹介された。三部敏宏副会長(ホンダ社長)によると、たとえば車載機器として大量に使われるアナログ半導体は、長期供給を求めるあまり古い設備に縛られ、コスト競争力が落ちる構図があった。本来、半導体は世代交代が早く、開発スピードが求められるジャンル。しかし自動車という商品特性としては、部品は10年、15年、同じパーツの同じ仕様が供給され続ける必要がある。商用車なら20年はザラだ。
そういうメーカーとユーザーの事情に半導体メーカーが付き合っていると、世代交代も商品開発スピードも落ちざるをえない。大量に受注がもらえる代わりに進化が遅くなる。PCやスマホ、サーバー業界と比べると、ここに自動車という産業の長所と短所がある。
これを逆回転させるために、業界共通のガイドライン発行やデータベース運用、政府支援も含めた投資循環をつくり、弱点を強みに変えていく——協調領域が「やれば効く」ことを示すエピソードとして非常に重い。
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