■異例の値上げを飲んだ直後に
自動車メーカーからすれば、地球環境のために世界的な要請になっている二酸化炭素削減を目指し、モーターをたくさん作りたい。けれど日本製鉄は無方向性電磁鋼板で大きな利益を上げようとしているように見えます。
前述のとおり、電動化車両の増加によりニーズが急増しているのに、日本製鉄は十分な供給量を確保できていない。
この流れを受けてトヨタも納得し妥協。今年10月に鋼材1トンあたり2万円という異例となる大幅値上げを飲んだ。日本製鉄はそれだけでは納得せず、今までトヨタと二人三脚で改良してきた無方向性電磁鋼板(初代プリウスの時に自動車用高性能モーター用として日本製鉄に依頼した経緯を持つ)の商品価値をさらに高めようと考えたのだろう。
少々専門的になるけれど、以下、業界筋から聞いた情報を紹介したい。
「電磁鋼板についてはモーター用の無方向性電磁鋼板、変圧器に使用される方向性電磁鋼板ともに鉄鋼メーカーの最後の砦ともいえる技術です。製造のヒントを与えないよう成分、製造方法等の特許をあえて公開していないものがあります。その代わりに周辺特許を出しています。日本の鉄鋼メーカーは韓国、中国に技術協力をしていましたが、当然電磁鋼板についても技術提供はしています。しかし、最後の肝の部分はブラックボックス化しています。
このような状況の中、無方向性電磁鋼板の供給量が圧倒的に不足したため、トヨタは生産規模の大きい中国製を使わざるを得なかったと思います。
供給量は増えないなか、今後の自動車の電動化はどこまで進むことができるのか、大きな課題となっています。省エネの流れは一層強まり、家電製品にも高級高性能な無方向性電磁鋼板も使用されており自動車向け以外でも需要は多いです」。
■このままだと「日本チーム」の危機に
今後どうなるだろう? 説明するまでもなく、宝山鋼鉄の親会社となる宝武鋼鉄集団は中国国営。中国で特許権を持っていなければ相手にしない。むしろ中国で合弁事業をしている日本製鉄への圧力が強まるだけ。その上で、「反抗した企業」というレッテルを貼られ。技術はすべて抜かれるとことになる。どう考えても勝てる戦いじゃない。
トヨタからすれば同じチームだと思っていた日本製鉄からイキナリ殴られたのと同じ。豊田章男社長もTOP同士の話し合いをしないまま訴訟を起こされたことに対し、強い不快感を表明している。もう少し正確なニュアンスだと「訴える前に連絡して欲しかった」。今やオール日本で環境問題に立ち向かうべきだと私も思う。
今回の訴訟で仮に日本製鉄が勝てば、環境にやさしいクルマの代金に上乗せされる。日本製鉄の狙いどおり無方向性電磁鋼板を値上げすると、自動車に限らず、あらゆる「二酸化炭素を減らす環境対応商品」の価格上昇に繋がっていく。ここは訴訟じゃなく環境問題を考えた上、話し合いで済ますべきだったと思う。このままだと日本製鉄は自動車産業のチーム員じゃなくなります。
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