2021年12月14日、トヨタはバッテリーEV戦略を発表した。2030年までに世界で新型EVを30車種発表、同年にはEV販売台数350万台/年(グローバル)を達成、レクサスは2035年までに新車販売の100%をEVに、電動化への開発投資は2030年までに8兆円、うち4兆円がEVへ(うち2兆円を電池へ)…など、衝撃的な内容であった。トヨタがこのような高い目標を発表した背景と実情について、世界の自動車事情と次世代技術に詳しいモータージャーナリストの御堀直嗣氏に伺った。
文/御堀直嗣
写真/TOYOTA、三橋仁明/N-RAK PHOTO AGENCY
■欧州や国内ライバル社を大きく上回る数字
トヨタが、12月に入って急遽バッテリーEV戦略に関する説明会を、年内で閉館されるメガウェブ(東京都江東区青海)で開催した。満面の笑顔で登壇した豊田章男社長の説明は25分にも及んだ。
カーボンニュートラルへ向けたトヨタの方針に大きな変更はないが、新たにEVの総販売台数をより増やし、それにともないバッテリー生産への投資と生産容量を拡大することが表明された。
具体的には、2030年に世界販売でのEV台数を(従来公表していた200万台から150万台上乗せして)350万台/年にする。そのためのバッテリー生産への投資額を、従来の1.5兆円から2兆円に増やし、これによるバッテリー生産容量は280GWh(ギガ・ワット・アワー)相当になるとの説明である。
(編集部注/トヨタの電動車に対する開発投資額は2030年までに8兆円。このうちEVに対して4兆円(つまりEV以外のHVやPHEV、燃料電池車などに同額の4兆円)、そのうち2兆円をバッテリー開発と生産体制へ投資するということ)
このトヨタの規模は、世界的に見てどれくらいになるか。
生産台数に対する具体的な数字は明らかではないが、バッテリー生産能力としてドイツのフォルクスワーゲンは240GWh、PSAとFCAの合併によるステランティスは260GWhと計画しているので、それらを超える規模となる。
フォルクスワーゲンもステランティスも、自動車販売台数の規模からすると世界規模を狙うフルラインアップメーカーである。日産が先ごろ発表した長期ビジョンのなかで示した130GWhを大きく上回る数字にもなる。日産と提携関係にあるルノーが示す24GWhをあわせれば、日産・ルノーで合計154GWhとなるが、競合他社と比較すると、今回のトヨタのEV投資の大きさがみえてくる。
また今回の記者会見場には、「bZ」(ビヨンド・ゼロ=ゼロを超えた価値)シリーズと名付けたEVが5台並べられ、それ以外にもさらに数年以内に市販される新型EVを公開、計16台(乗用と商用を含む)が用意された。
ラインアップのなかにはスポーツカーも並んでおり、これにはトヨタが鋭意開発中の全個体電池が搭載されるようだ。全個体電池は、現在のリチウムイオン電池に比べ性能が高いことが期待され、バッテリー搭載量を減らしても走行距離や高性能化への貢献を狙ってのことだろう。
2年前にトヨタの寺師茂樹副社長が行った記者会見では漠然としたモックアップしか展示されなかったが、この2年余で予算と計画台数を大幅に積み増し、より生産車に近い外観を持つモデルを16台も提示したことは、トヨタが着実に交渉を進め体制を整え、EVの車種構成を積み上げてきた様子を伺わせる。
今回の記者会見は唐突感のある催しだったが、短期間にここまでの内容を公表したことに、改めてトヨタの底力を思い知らされるのであった。
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