都内でタクシーを捕まえるのが難しくなっている。人手不足が進み、タクシー会社には動かせる車両があるものの運転手がいないため稼働できない状況が続いているからだ。いっぽうで、2022年11月の都内運賃値上げを受けて、タクシー運転手の月収は上昇しており、手取りで月給50万円を超えるドライバーも急増しているという。実態と背景を取材した。
文/ベストカーWeb編集部、写真/AdobeStock、ベストカーWeb編集部
■運賃改定とドライバー不足の相乗効果
「この3年のコロナ禍で同僚がたくさん辞めちゃったけど、残って続けている連中はみんな喜んでいますよ。みんな手取りで月収50万円超。戻ってくればいいのに。うちは120台あるタクシー会社なんですけど、毎日10台以上あいている」
と語るのは、都内でタクシー会社に勤務するドライバー。
国土交通省の認可を受けて、昨年(2022年)11月に、東京都(23区、武蔵野市、三鷹市)のタクシー運賃が2007年以来、実に15年ぶりに値上げされた。普通車タクシーの初乗り料金の上限が420円から500円へ、初乗り距離は1.052kmから1.096km、加算額は80円から100円、加算距離も233mから255mへとそれぞれ改定。値上げ率は14.24%となる(昨年から今年にかけて、東京だけでなく全国規模でタクシー料金の値上げが続いている)。
そのいっぽうで、高齢化とコロナ禍により、タクシー業界の人手不足は進んだまま戻っていない。2019年末には全国で29万1516名だったタクシー運転手が、2023年3月末には23万1938名(全国ハイヤー・タクシー連合会調べ)、20.4%減となっている。
「これまでタクシーが値上げすると、客足が減って売上も減り、実入りはトントンでした(タクシーの多くは売上の6割程度が運転手の収入になる)。それが、昨年暮れの値上げから客足は変わらず、春すぎからコロナが明けて、客足が大幅に増えて、いま都内では需要に供給がまったく追い付いてない状態です。わたし、この商売を35年やってますが、こんなに景気がいいのは初めてですよ」
と語るのは、六本木など繁華街を拠点とするタクシー運転手のIさん(63歳)。コロナ禍で繁華街から人手が消えてタクシー需要が大幅に減少し、一時は退職を考えたが、いまは「辞めなくてよかった…みんな戻ってくればいいのに」と、離職した同僚の復職を願っているという。
「自分はもう体力がないので連勤は難しいけど、それでも深夜勤務せずに毎月売上がコンスタントに80万~90万円超。いま手取りで月収50万円くらいです」
とのこと。すげえ。
いま、タクシー業界の人手不足の深刻化を受けて、各自治体では「ライドシェア」の導入が検討されている。これまでタクシー業には普通第二種免許や運行管理者の配置が必須とされていたが、そうした規制を排して一般ドライバーでも自家用車を使って有料で乗客を運ぶ(インターネット上で乗客とドライバーをマッチングする)ことができる制度を、試験的、段階的に導入しようという試みだ。
しかし、取材したドライバーはタクシー業界の活況を喜んでおり、「このままの賃金水準が続けばそのうちドライバーも戻ってくると思う」と語る。デジタル化、MaaS(Mobility as a Service)の推進で「ユーザーにより便利に」という狙いもわかるが、ライドシェア導入には賛否がある。旅客事業の品質低下、雪崩を打って続く低価格化、交通環境の悪化など、「負の側面」も懸念されるからだ。
月収50万円、年収600万円なら「やりたい」という人は多いのではないだろうか。タクシーの賃金上昇は、運転手の地位や技術向上にも貢献する。それが回り回って道路の安心安全につながるはずなので、歓迎します。各自治体は交通環境全体のことを考えて、もう少し状況を見守ってみては。
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