F1なんて意味あるの!? なぜホンダは未だにレース熱心なのか

「F1で何勝したってカブが売れるわけじゃない」

今や日本一のヒット車となった軽自動車のN-BOX。「軽自動車のホンダ」、「ミニバンのホンダ」というイメージが定着しつつあるが、それと無関係に見えるF1参戦の意義とは?

フェル:では、現在のレース活動は、実際の販売につながっているのですか? F1で表彰台に立ったから、ホンダのクルマに決めました、というお客さんは実際にいるのですか。

森山:うーん。その効果測定は非常に難しいですね(苦笑)。もちろん、なかにはF1のファンでホンダのクルマを買ってくださる方もお客様もいらっしゃいます。

 しかし、それは購買理由の中のほんのひとつでしかありません。ご家庭における自動車の購買決定権は、奥様が握っているというケースがほとんどですし。

フェル:購買決定権は奥様が握っている。なるほど……。

森山:いまフェルさんは、ホンダのことを「ワンボックスの会社」、「軽自動車の会社」と表現された。そして、それを「残念ながら」とも仰った。もしかしたらフェルさんだけでなく、多くの方もそう思っているのかも知れません。

 でもこれ、我々としては少しも残念だなんて思っていません。N-BOXが圧倒的に売れているのは、それが世の中に求められているからです。ホンダは世の中を少しでも便利にするために、少しでも暮らしやすくするために存在する会社です。

 軽自動車をたくさんの方にご評価いただいて、たくさんの方に買っていただく。素晴らしいじゃないですか。

フェル:すると、ワンボックスだ、軽だと言われるのは……

森山:少しも残念なんかじゃありません。これがホンダのあるべき姿です。だってホンダが一番始めにF1に挑戦した頃は、スーパーカブをコツコツ売ったお金でやっていたんですよ。

 F1とカブなんて、何の関係も無いじゃないですか(笑)。何勝したって、それでカブが売れるという話じゃないじゃないですか。

フェル:確かに。仰るとおりです。いや、これは面白い。

森山:もちろん、F1で勝って、それでホンダのクルマが売れてくれれば、こんなにうれしいことはありません。ですが我々はもっと長期的な目で見ています。

 「挑戦する会社」であると同時に、「世の中の役に立つ会社」でもあるということをご理解いただきたいです。

「F1なんてやめちまえ」という人がいることがホンダらしさ

セナとプロストの手によって、黄金時代を築いたマクラーレン・ホンダ。1988年には16戦15勝という記録を達成したが、それでも「やめちまえ」という声はあったという(写真は1989年日本GP)

フェル:ホンダの役員陣は、全員揃ってF1の参戦に賛成なんですか。とてもおカネのかかることですよね。

 みんながみんな、万歳三唱でF1をやっているのですか。「そんなにカネがかかるならやめちまえ。代わりにCMでも打ったらどうだ」、という人はいないのですか。

森山:F1に反対の人はもちろんいます。あんなのやめちまえ、という人もいます。

フェル:残念ながら、一枚岩ではないと。

森山:そこも「残念」ではないんですね(笑)。ホンダは多様性を何よりも重んじる会社です。反対意見があるのは良いことです。そこで議論して議論して、ようやく実現していくんです。みんな揃って万歳三唱なんて、その方がヘンですよ。

フェル:ほー、意外ですね。ホンダの社内でF1の反対意見なんて唱えたら、それこそ非国民扱いされるのかと思っていました(笑)。

森山:とんでもない。そんなことは絶対にないし許されない。ホンダは昔からそうなんです。あれだけ勝っていたセナ・プロの時代にだって、「レースなんてムダだ。やめちまえ」と大声で言う人はいたんです。

 それでその人がスポイルされたかというと、決してそんなことはない。むしろ偉くなっているくらいです。

フェル:だ、誰ですかその人は。

森山:個人名は差し控えさえて頂きます(笑)。

フェル:最後にひとつ教えて下さい。「ホンダはなぜF1をやるのか」という質問に、一言で答えるとしたら何と言われますか。

森山:「ホンダの技術力は世界に通用するものだ」ということを証明するためです。だからF1で頂点を極めたい。

フェル:負けてしまったら、大金を叩いた上に大恥をかくことになりませんか……。

森山:そのとおりです。F1は勝者のみが称賛されるチャンピオンスポーツです。勝てる保証はどこにもありません。だからこそ挑戦するんです。ホンダは勝つために必死で頑張っています。このことを読者のみなさんにはご理解いただきたいです。よろしくお願いします。

フェル:たいへんよく分かりました。今日はお忙しいところ、ありがとうございました。

森山:ありがとうございました。

◆  ◆  ◆

 ホンダF1第一期。たしかに、ホンダは安価なスーパーカブを売ってコツコツ貯めた資金を叩き、「無謀」にもF1に参加したのだった。

 翻って今のホンダはどうだろう。売上15兆円を超える巨大企業。創業者本田宗一郎氏の夢であった航空機の製造販売を実現し、二輪においては押しも押されもせぬ「世界一」の企業にまで成長した。

 黄金時代の第二期と比べても、文字どおり「桁違い」に成長したホンダは、これからどのように戦い、どのように勝っていくのか。

 モナコGPは今日5月26日、決勝を迎える。ルノーのエンジンを積んでいた2018年のレッドブルは、ここで優勝している。ホンダにとっては正念場の戦いとなる。

■森山克英(もりやまかつひで)/1966年生まれ、53歳。1989年に本田技研工業株式会社入社。
本田汽車(中国)有限公司 総経理、広汽本田汽車有限公司 営業副本部長兼営業部長などを歴任し、2015年に本田技研工業株式会社の四輪事業本部長 マーケティング企画室長に。
2017年より執行役員を務める

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