なぜ、ここまで大差がついてしまったのだろうか—–。
2018年のトヨタアルファードの販売台数は年間5万8800台、ヴェルファイアは4万3130台。いっぽうの日産エルグランドは7313台と、大きな差が開いている。
また、アルファードは2015年にモデルチェンジを行ったが、エルグランドは2010年登場のモデルのまますでに9年目に突入し、商品として、熟成を通り越して腐りかけている。なぜエルグランドはアルファードになれなかったのか、元自動車メーカーのエンジニアであった筆者がその理由について考察する。
文:吉川賢一
■エルグランドの持ち味とはなんだったのか?
1997年に登場した初代エルグランドは、「大人数を乗せて快適に移動する空間」というコンセプトがヒットし、飛ぶように売れた。
乗員や荷物をたっぷりと荷室に積んでも、しっかりとトラクションが得られるよう、後輪駆動もしくは4WDとした点も、当時の評論家やクルマ好きから好評だった(もともとアルファードは、この初代エルグランドのヒットを見て2002年に登場したクルマであり、むしろ「アルファードのほうがエルグランドになりたかった」という背景がある)。
2002年に2代目へとモデルチェンジ、FRと4WDは踏襲し、リアにはスカイラインやフーガにも採用した高性能なマルチリンク式サスペンションを採用、リア入力時の乗心地とリアスタビリティを高次元で両立し、「走り」へのこだわりをキープコンセプトして貫いていた。
2010年に3代目へとモデルチェンジを行ったエルグランドは、これまで成功してきた「走りのミニバン」路線を極めるため、全高を1910mm(E51型)から1815mm(E52型)へと大きく下げ、低重心を狙ったスタイルへとなった。
ここで歴代エルグランドのサイズを振り返ってみると、モデルチェンジごとに全長と全幅が広げられ、全高が下がっていることがわかる。
・初代エルグランド(E50) 全長4775×全幅1775×全高1955mm
・2代目エルグランド(E51) 全長4835×全幅1815×全高1910mm
・3代目エルグランド(E52) 全長4915×全幅1850×全高1815mm
(なおアルファードの全高は初代が1935mm、2代目が1915mm、3代目が1950mm)
2代目アルファードの全高は1915mm(3代目アルファードは1950mm)であるから、アルファードと比べると明らかに低く見えた。これが、「エルグランドの悪夢の始まり」だったと筆者は考えている。
■日産がエルグランドに課した「あやまち」
このように、日産は「顧客から走りを求められている」と考え、走行性能に徹底的にこだわった。そして、その狙いどおりにできあがったエルグランドは、「走り【は】よかった」と、試乗したドライバーから言われるクルマとなった。当時、日産の開発部門にいた筆者も、「ミニバンの中では抜きん出たハンドリング性能と乗り心地を合わせ持つ一台だ」と感じていた。しかし、その「走り」と引き換えに、3代目エルグランドは、大切な「ミニバンとしての魅力」を削がれてしまったのだ。
「ミニバンの長所」とは、言うまでもなく大人数が乗れたり、頭上やひざ回りの空間が広かったり、収納スペースが大きかったり……。そしておそらく、この類のミニバンを求めるユーザーにとっては、「視界の高さからくる優越感」や「ボディのボリューム感」が大切なポイントであろう。
エルグランドの場合、低床化をしたことで室内スペースは広く感じるのだが、この「視界の高さ」や「ボリューム」を感じにくい。「背が高い」というと、走りを好むユーザーからは否定的な意見が出るかもしれないが、そもそも走りを求めないユーザーや、ドライバー以外の乗員のことを考えると、代を重ねるごとにエルグランドの背が低くなってゆくことが、決定的な敗因となりえたと筆者は考える。
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