縞模様や唐草模様、渦巻き模様などの白黒の迷彩柄で外観をカモフラージュさせた新型車が、サーキットやそのコースを模したテストコース、あるいは一般公道でテスト走行している写真を、雑誌やインターネットで見かけることがあるのではないでしょうか。スポーツカーはもちろん、SUVやセダン、ミニバンなど、およそ限界走行する機会が少なそうなクルマでも、カモフラージュさせてまでサーキットで開発車を走らせるのには、どんな理由があるのでしょうか。
元メーカー開発者の吉川氏に、その理由と狙いを聞きました。
文:吉川賢一 写真:トヨタ
■「シミュレーション」だけでは作れない事情
クルマの走行性能や安全性を確保するためには、個別コンポーネント(部品、構成要素)の動きだけではなく、車両全体として、それぞれのコンポーネントが正しく連携動作することを確認する必要があります。そのためには、実際に走行して確かめる必要があり、これはどんなにシミュレーション技術が進化したとしても欠くことは出来ない作業です。
まして、昨今のクルマは、電子制御などで年々複雑化しており、さまざまな運転支援システムも搭載が進む中、複雑化の傾向は、さらに加速しています。こうした中、実車を使った走行実験は、むしろ重要性が増しているといえるのです。
■開発車をサーキットで走らせると、なにがわかる?
有名なドイツのサーキット・ニュルブルクリンク北コース(通称:ニュル)で開発車を走らせ、「FF最速!」とか「市販車のラップタイム更新!」といった話題を目にすることがありますが、メーカーは、決して、ラップタイムを競うために開発車を走らせているのではありません。
たしかに、ライバルよりもいいタイムが出れば宣伝になり、同時にクルマの性能の高さをアピールすることもできます。しかし、これが開発車をサーキットで走らせる、本来の目的ではありません。
サーキットなどを利用してクルマを全開で走らせるということは、日常生活で走らせるのとは比較にならないほど、車両に高負荷をかけることができます。ブレーキ、足回り、シャシー、エンジンすべてにおいてです。
たとえば、前述のニュルブルクリンクは、大小172のコーナーを始めとして、バンプやアンジュレーション、ジャンピングスポットなどさまざまな路面変化をもつサーキットです。世界中の路面コンディションが集約されているといわれており、「自動車開発の聖地」として、世界中の自動車メーカーが利用しています。このニュル1周(約21km)を全開で走行すると、一般道の2,000~3,000kmに相当する負荷がかかるそう。
すべてのクルマが、この過酷なニュルでのテスト走行が必要なわけではありませんが、こうしたサーキットを全開走行することで、コンピューターシミュレーションでは洗い出せなかった車両の細かい挙動や、各部品の熱害、制御システムの誤作動を確認することができるのです。
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