マツダのデザインは、ひと昔前と大きく変わった。その新世代デザインの第1弾として2012年に登場したのが現行CX-5だった。
そして2016年11月16日、2代目となる新型CX-5が世界初公開。この新型も現行CX-5から始まったデザイン路線を継承し、発展させたものだ。
さて、マツダ車のイメージを変えた一連のデザインの原点を、元日産自動車チーフデザイナーの故・前澤義雄氏はどう評していたのか? ……んん? まさか、清水草一氏とまったく評価が噛み合っていない!?
ベストカー 2012年6月10日号
「デザイン水かけ論」
フロントの分厚さにスポーティ感がない!?
清水 今回のお題はマツダのCX-5です。
前澤 ……。
清水 なんかもう、日本産業界を代表する良心的商品といいますか、すばらしいですよね、あの走り。
前澤 あれじゃエンジンがかわいそうだ。
清水 え?
前澤 あんないいエンジン積んで、なぜあんなにカッコ悪いのか。ひどいもんだ。
清水 え、え!? そんなに悪くないでしょう。
前澤 まったくダメ。
清水 いや、そんなによくはないけど、あ~、あと一歩だなぁ、とは思うけど、でも、カッコよすぎずカッコ悪すぎず、ちょうどいい水準のデザインですよ、ビジネス的には。
前澤 パッと見た瞬間からダメ。
清水 具体的にはどこが?
前澤 全部。
清水 ぜ、全部ですか!?
前澤 たとえばフロントの分厚さ。スポーティ感とか、前に進む乗り物感がまったくない。グリルもあいまいで全然ダメ。
清水 あのフロント、特によくはないけど、悪くもないんでは。グリルの分厚さは、力強さとか押し出し感を出すための常套手段だし。
前澤 鈍くてドテッとしている。あれならスカイラインクロスオーバーのほうがまだいい。
清水 スカイラインクロスオーバーに比べたらずっと軽快ですよ。
前澤 逆。CX-5は鈍重だ。一番いけないのは、プロポーションが目茶苦茶なことだ。
清水 えええっ!? 目茶苦茶ぁ!?
前澤 たとえばサイド。フロントフェンダーがプックリしてるかと思うと、そこからスーッとラインが後ろに引かれていて、後ろのほうはスッキリしている。全体としてデタラメだ
清水 いやそれは……。何をいってるのかわかりません。
前澤 あのプロポーションは何も考えていない。
清水 う~~~ん……。僕はいつも、前澤さんのデザイン論を必死に咀嚼(そしゃく)しようと努めてますけど、今日のは取りつく島がないです。それって、学校の先生が、ある程度できる生徒をつかまえて、『お前はあれがダメだ、これがダメだ』って、ただ難クセ付けてるようにしか聞こえないんですけど。
前澤 (聞いてない)いろんな要素をグチャグチャ突っ込んだだけで、何の意味もない。統一感が全然ない。
清水 そういう風にはまったく見えません。合格点までは届かないけど、SUVにおける適度なスポーティ感を狙っていて、それなりに実現している。たとえばホンダのCR-Vより、CX-5のほうがかなりいいと思う。
前澤 CR-Vのほうが上。
清水 CX-5に乗ってれば、誰からも『そこそこカッコいいね』と言ってもらえますよ。それは間違いない。
前澤 デザインの主張が何もない。次のアテンザ(注:現行アテンザ、当時は発売前)もひどいもんだ。
清水 ええええええっっっ!? あの“魂動”がですか!? あれは日本の自動車デザインにとって、最大の希望の星じゃないですかあっ!
前澤 化粧品のCMの類いだ。単にキレイになでつけただけだ。あんなデザインをしているから、韓国車に負けるんだ。
清水 あれこそが韓国車に対する、最大の反撃兵器ですよ!
前澤 まったくダメだ。
前澤義雄の採点…67点
せっかくのディーゼルが台無し。鈍重なデザインだ
マツダの期待の星って感じのSKYACTIVだが、その最終形のディーゼル版を載せたCX-5が発売された。
秋の東京モーターショーで目にした時から、ドテッと鈍重でメリハリのない印象だったが、高原の日差しのなかで観てもその印象は変わらず、加えて部分的な主張だけが目立つ、纏まりに欠けたデザインと感じた次第。
ガソリン版をはるかに凌駕するハシリの楽しさを与えるディーゼル搭載車だけに惜しまれる、ジツニ。
モッコリとしたフロントボディに、各部品がそれぞれのカッコで散らばり、続くセンターボディは、直線基調と曲面構成上のキャラクターラインが上下に混在。そしてリアボディは無難な凡庸さとなっており、全体の統一感もなければプロポーションにネライも感じられない。
CX-5はSUVの一種なのだろうが、今やSUVの世界の競争は激しく、単に性能や機能が優れるのみならず、デザインの魅力が大きく商品性を左右する時代となっている。
マツダがデザインに注力している様子はワカル……が、精神や意欲を込めた漢字を標榜するだけじゃなく、ホントのデザイン志向をしてほしいのだ。
清水草一の採点…76点
今回の前澤さんの評価は理解不能だ
前澤さんは、CX-5の何がそんなに気に入らないのか。具体的な指摘を聞いても、サッパリ理解できません。
CX-5をごく普通に評価すれば、BMW的な彫刻デザインの延長線上にある、そこそこレベルのSUVデザイン、ということになるんじゃないか。
新しさはないし、いまひとつ心に響かないけど、それなりにまとまっていて、決して悪くはない。中の上くらい。僕はそう思う。
以前から、前澤さんの言うことがまるで理解できないってことはたまにあったけど、最近では、アクアの高評価とこのCX-5の低評価がまったく意味不明だね。
もともとこの連載については、読者から「ふたりの評価が理解できない」と指摘されることも少なくない。
でも、自動車デザインの評価を好き嫌いの問題で終わらせずに、ある種の絶対評価を目指そうということで始まったんだから、そういう人がいることは当然だ。全人類がピカソの絵を理解できるわけじゃない(私を含む)。
ただ、今回の前澤さんの評価を聞くと、あまりにも理解が困難で、「やっぱデザインって、好みの問題なのかも……」なんて思ってしまったりもするんだよね。前澤さんの目には、いったいどんな景色が見えているのか?
つい弱気になってしまいます。

前澤義雄
1939年生まれ、東京都出身。1965年にプリンス自動車に入社。以後、日産自動車のデザイナーとしてプリメーラ(P10)やフェアレディZ(Z32)などのデザインを手がける。
同社退社後は、フリーの自動車評論家としてベストカーの「デザイン水掛け論」を中心に活躍。寡黙ながらも深い知見で、はっとする気づきを提示してくれた同連載は、読者にも好評だった。享年75
清水草一
1962年生まれ、東京都出身。週刊プレイボーイの編集者を経て、モータージャーナリストとなる。自ら所有するフェラーリや高速道路行政関連にも造詣が深い。
ベストカーでは「デザイン水掛け論」や、現在も連載中の「エンスー解放戦線」などで活躍中