これまで日本にはたくさんのクルマが生まれては消えていった。そのなかには、「珍車」などと呼ばれ、現代でも面白おかしく語られているモデルもある。しかし、それらのクルマが試金石となったことで、数々の名車が生まれたと言っても過言ではない。
当連載では、これら「珍車」と呼ばれた伝説のクルマや技術などをピックアップし、その特徴を解説しつつ、日本の自動車文化を豊かにしてくれたことへの感謝と「愛」を語っていく。今回は、コンパクトカーの客層を広げ、レトロ調路線を盛り上げたマーチタンゴを取り上げる。
文/フォッケウルフ、写真/日産
人気の2代目マーチをベースにした特別仕様車
日常的な用途に秀でたクルマの購入を検討する場合、候補に挙げられるのがコンパクトカーと軽自動車だ。いずれも小型のボディサイズを生かした取りまわし性のよさや燃料消費量の少なさ、日常使いで不満のない実用性などの特徴を持ち、デイリーユースに適した選択肢として広く認知されてきた。
特に軽自動車はスーパーハイトワゴンが登場して以降、クルマとしての活用の幅が広がり、各メーカーが実用的で個性的な軽自動車をリリースするようになったことで、大きなクルマから小さなクルマへ乗り換えるダウンサイジングが一気に加速し、ファミリーカーやファーストカーとしても人気を集めるようになった。
軽自動車が人気を集める一方で、コンパクトカーの存在感はやや希薄となったが、かつてはコンパクトカーこそ小さなクルマのメインストリームで、車両価格だけでなく、税金や保険、燃料代といった維持費がかからない選択肢の筆頭だった。
そんなコンパクトカーのなかでも1982年10月に登場した日産マーチは、日本だけでなく世界に通用する能力を目指して開発され、その後のコンパクトカーの先鞭となるエポックメイキングなクルマとして高い評価を獲得。2022年に生産終了となるまで、およそ40年間に渡って愛された。
なかでも1992年1月に登場した2代目は、「高効率のパッケージングと経済的で軽快な走りのニューコンパクト」というコンセプトを掲げ、低重心で丸みを帯びた親しみのあるフォルムや、伝達効率に優れる無段変速機CVTを搭載し、軽快で機敏な走りと省燃費性能を両立したモデルとして人気を博した。
この2代目マーチは10年というロングセラーを達成したが、その間に多くの派生車種を輩出している。シリーズ初となるオープンモデルのマーチカブリオレやステーションワゴンモデルのマーチボックスといった希少車のほか、「ボレロ」を筆頭としたオーテックジャパンが手掛けたカスタムモデルがリリースされたのは、マーチの人気を裏付ける要素のひとつと言えるだろう。
懐かしさを漂わすレトロ調モデルとして誕生
オーテックジャパンが手掛けた特別なマーチといえばボレロが広く知られているが、それ以前に登場したのが今回クローズアップする「タンゴ」だ。
ベースは1.3Lエンジンを搭載したA#(Aシャープ)と、1.0Lエンジンを搭載するi・z-fで、ボディタイプは3ドアと5ドアが用意され、カスタム内容はいずれも同様となる。
「街がもっと楽しくなる。懐かしさが薫るマーチ」というキャッチフレーズを掲げ、スバルからヴィヴィオビストロが登場して以降、市場でウケていたネオクラシック路線をマーチで表現していた。
クロームメッキオーバーライダー付きフロントバンパーと、クロームメッキフロントグリルで構成される特徴的なフロントまわりの造形は、既存の国産コンパクトカーとは一線を画すもので、クロームメッキの多用によって実現した上質感も相まって欧州車的な雰囲気を漂わせている。
サイドにはフェンダーから一直線にボディ側面を貫くウエストモールディングがあしらわれ、絶妙なアクセントとしてとなっている。足元には専用にデザインされたクロームメッキのホイールキャップが装着され、タイヤは175/60R13という当時のコンパクトカーとしては幅広サイズを履いていた。
リアまわりはデザインこそベース車を踏襲するが、フロントと同様にバンパーはオーバーライダー付きとすることで独自の個性をアピール。ナンバープレートの周囲を飾るライセンスプレートフィニッシャーとカラードライセンスランプカバーが装着されるなど、細部にもカスタムが施されていた。







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