クルマの心臓部となるエンジン。スポーツタイプのクルマなら、官能的で刺激的なほうが楽しい。
いっぽうで上質な高級車には、静かでいてストレスを感じさせないパワフルさがほしい。求める用途で「気持ちよさ」は異なるわけだが、現在のライナップのなかから、個性のあるいいエンジンと残念なエンジンについて考えてみた。
文:鈴木直也
ベストカー2016年6月10日号
最近のエンジンはどれも優等生
いいエンジン、だめなエンジンを選べという編集部の注文だが、最近のエンジンはどれもドングリの背比べ。
そんなに極端にダメなエンジンもない代わり、眼が覚めるほど素晴らしいエンジンもない。正直いってこれが実情だ。
これにはCAE(コンピュータ支援エンジニアリング)の発達や部品を供給するサプライヤーの競争激化といった裏事情が関係している。
最近のCAEソフトは「この部品を肉抜きして最適に軽量化せよ」なんて注文すると、瞬時に最適形状を割り出してくれたりする。つまり、諸元が決まると誰が設計しても似たような結果が出る、というわけ。
また、重要な補機類については大手のサプライヤーがさまざまな品揃えでエンジニアの注文を待っている。例えば、可変バルタイなどのバルブ駆動系、ターボなど過給器系、直噴インジェクター、ピストン、バルブ……etc。
このあたり、昔オーダーメイドだったものがどんどん既製品化。ブティックで好みの部品を注文してコンピュータにブチ込むと、ほぼお望みのエンジンが出来上がっちゃう時代になりつつある。
残るはECUのプログラムをどう書くかといった制御の方法だが、コンピュータプログラムの性格上完成してしまうと信頼性を損なう全面的な書き換えはやりたくない。
かくして、どのメーカーのエンジンも似たり寄ったりとなってしまうわけだ。
個性的なエンジンといえばこれ
もちろん、キャラクター的にエンジンに贅沢できるクルマは別である。
GT-RとかGS FとかシビックタイプRとか、この種の高価なスポーツカーのエンジンはどれも力作ぞろい。当たり前だけど、お金をかければパワフルでブン回して気持ちいいエンジンが手に入る。
ただ、これも「高性能エンジンはこう造る」というセオリーのなかで「コスト」というパラメータをいじっただけという気がしないでもない。ま、量産される工業製品にあんまり夢を見てはいけない時代なのかもしれません。
そんなわけだから、ぼくが考える「いいエンジン」の条件としては、コストやパッケージングにさまざまな制約がある普及価格帯で、キャラが立っていることがポイントだ。
この基準で選んだのが以下の5基だ。
ホンダのL15B型 1.5LターボとスズキバレーノのK10C型 1Lターボは、ダウンサイズターボの力強いトルク感が個性的。
ロードスターのP5-VP型 1.5Lはコストをかけて丁寧にファインチューニングすると、量産型直4でも見違えるほど魅力的になるという見本。
またマツダのSH-VP型 2.2Lディーゼルは日本におけるクリーンディーゼルの牽引車。
86/BRZのFA20型水平対向 2Lは、もう水平対向というだけで存在意義あり。
いっぽう、ダメなエンジンというのは、あえて具体的に挙げないけど平凡で性能的にも中途半端なエンジンだな。
たとえば「開発目標は燃費とコスト低減のみ!」というエンジンでも、結果として超低燃費だったり超コストパフォーマンス良好なら拍手を送りたいのだが、こういう身も蓋もないテーマで燃費もドライバビリティも中途半端だったりするとガッカリする。けっこうあるよね、そういうエンジン。
CAEの発達で誰でも平均点は取れる時代、群れの中に埋もれたら負け。エンジンを開発するエンジニアの方々には、ぜひとも「個性的であること」というテーマを開発条件に加えてもらいたいものです。
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