これまで日本にはたくさんのクルマが生まれては消えていった。そのなかには、「珍車」などと呼ばれ、現代でも面白おかしく語られているモデルもある。しかし、それらのクルマが試金石となったことで、数々の名車が生まれたと言っても過言ではない。
当連載では、これら「珍車」と呼ばれた伝説のクルマや技術などをピックアップし、その特徴を解説しつつ、日本の自動車文化を豊かにしてくれたことへの感謝と「愛」を語っていく。今回は、1990年代にクロスオーバーモデルのカタチを広く知らしめた日産ルネッサを取り上げる。
文/フォッケウルフ、写真/日産
【画像ギャラリー】 独自のパッケージングで乗員が心地よく過ごせる室内空間とスポーティネスを高い次元で融合したルネッサの写真をもっと見る!(9枚)画像ギャラリーあらゆるニーズを1台に凝縮した理想の万能車
1990年代半ば、クルマに求められる役割は大きく変化し始めていた。ライフスタイルの多様化に伴って、それまでの「セダン=ファミリー向け」「スポーツカー=走り」「ステーションワゴン=荷物を積む」といった明確な住み分けは次第に意味を失い、ユーザーは1台でなんでもこなせるクルマを求めるようになってきた。
そうした市場動向を踏まえ日産は。乗車定員がミニバン並みに確保され、荷室はステーションワゴンに匹敵する容量を持ち、さらにはハンドリングや加速といった走行性能にも妥協しない、そんな“理想の万能車”の開発に着手する。
1997年10月にデビューした「ルネッサ」は、乗る人すべてに広々とした快適な室内空間を提供する優れたパッケージングを基本にしながらオールマイティな能力を有したクルマとして注目を集めた。
ルネッサの室内空間には、徹底したパッケージング思想が息づいているわけだが、具体的には段差のないフラットフロア構造や、前席から後席への移動が容易なウォークスルー機構、最大570mmのスライド量を誇るロングスライドシートの採用などが挙げられる。
各シートについては2800mmのロングホイールベースをベースに、フロントシートは前方のホイールハウスに沿って上前方へ、リアシートは後方のホイールハウスに沿って上後方へと、それぞれ大胆に配置されている。こうした配置によって前後席間の距離を大幅に確保し、全乗員に広々とした居住空間が提供できる。
1台で多用途をこなせるクルマとして実用性は重要なファクターとなるが、とくにルネッサでは荷室設計に注力している。段差の少ないフラットなフロアと張り出しのないホイールハウス形状に加え、リアスライドシートの前後移動によって、用途に応じて荷室スペースの拡張を可能にしている。
特にラゲッジモード(リアシート最前端位置)では、荷室長1401mm、容量1615L(VDA値)という圧倒的な収納力を確保し、日常の買い物をはじめ、アウトドアギアなど大型荷物の積載にも余裕を見せる。
また、バックドアは開口部を広く取りつつ、ヒンジを前方に設置することで開閉時のオーバーハングをわずか443mmに抑制。これにより後方スペースが限られる駐車環境でも荷物の出し入れがスムースに行うことができた。
ベストパッケージから生まれた理想のフォルムと快適空間
ルネッサが90年代の国産クロスオーバーに新しい価値をもたらした意欲作であることは、内外装の作りからも見て取れる。
エクステリアデザインは、合理性と美しさを高次元で両立する理想のフォルムを追求したものとなる。多用途に使えるクルマらしい機能性に裏打ちされたそのプロポーションは、見る者に力強さと洗練を同時に印象づける。
フロントは、グリルからフードへとつながるダイナミックで立体的な造形を特徴として車格以上の存在感を放つ。そのなかに収められた丸型4灯ヘッドランプは、クラシカルな要素とモダンな表現を融合させることでスポーティさと高級感を巧みに両立させている。
サイドビューは、リアピラーに傾斜を持たせることで軽快かつスポーティなシルエットを演出。さらに、前後に張り出したブリスターフェンダーが躍動感と力強さを際立たせる。足もとには、新造形の5本スポークタイプ15インチアルミロードホイールが装着され、スタンスのよさと走りの期待感を視覚的に高めている。
リアまわりには、横基調の大型リヤコンビネーションランプを採用し、ワイド感と安定感を両立した。さらにバックドアサッシュをブラックアウト化することで、リアサイドウインドウとの一体感をもたらし、後方からのデザインにも統一感と上質さが宿っている。
車内はドライバーにとって操作性と視認性に優れたコックピット空間を、同乗者にとってはくつろぎを感じる居住性とユーティリティを兼ね備えた設計となっている。
運転席まわりは、適度な包まれ感を持つスポーティなコックピットレイアウトを採用。ドライバーの集中力を高めると同時に走る楽しさを演出している。インストルメントパネルにはラウンド感のある立体的な造形を与え、穏やかさと安心感が表現されている。

クロスオーバーモデルとして走りもなおざりにしていないのはルネッサのセールスポイントに挙げられる。ルネッサの走行性能は、ファミリーユースで必須の快適さと、ドライバーの運転する楽しさを両立するために徹底的に磨き込まれている。パワーユニットからボディ構造、足まわりに至るまで、専用チューニングが施されたことで実現した独特の走りの質感を持ち味としている。
搭載されるエンジンは、用途や駆動方式に応じた3種類のユニットがラインナップされる。2WD車には、軽快なレスポンスと高回転域まで伸びのある出力特性で定評のある、SR20DE型直列4気筒DOHCエンジンを採用し、日常域から高速走行まで、バランスの取れた性能を発揮する。
一部グレードの4WD車には、出力性能と静粛性に優れる改良型「KA24DE」エンジンが搭載される。高トルクとスムースな回転フィールにより、ロングドライブでも疲れにくい走りを実現している。
さらに、最上級グレードとなるGTターボには、スポーツドライビングを意識したターボ仕様のSR20DETエンジンを搭載。ターボならではの鋭い加速感とトルクの厚みで、ルネッサに、走りのモデルとしての個性を付加している。
走りの基盤となるボディはアンダーフロアがフラット化され、ねじり剛性を高めた高剛性構造が採用された。こうした構造によって走行中の安定感だけでなく、乗り心地や耐久性、信頼性の向上にも寄与している。また、徹底した遮音対策も施されており、風切り音やロードノイズを効果的に抑制。乗員が安心してくつろげる、上質な静粛性を確保している。
足まわりは、フロントにストラット式サスペンションを採用し、リアは2WD車がマルチリンクビーム式、4WD車にはマルチリンク式を採用し、それぞれに専用のチューニングを施すことで、ハイレベルな操縦安定性と快適な乗り心地の両立を実現している。
実用性を重視したマルチパーパスというイメージが強いものの、走りにおいても乗る人すべてが満足できる能力と質感を備えたクロスオーバーモデルに仕上げられているのだ。










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