これまで日本にはたくさんのクルマが生まれては消えていった。そのなかには、「珍車」などと呼ばれ、現代でも面白おかしく語られているモデルもある。しかし、それらのクルマが試金石となったことで、数々の名車が生まれたと言っても過言ではない。
当連載では、これら「珍車」と呼ばれた伝説のクルマや技術などをピックアップし、その特徴を解説しつつ、日本の自動車文化を豊かにしてくれたことへの感謝と「愛」を語っていく。今回は、卓越した技術が生んだ新世代ラグジュアリーの原点、日産インフィニティQ45を取り上げる。
文/フォッケウルフ、写真/日産
【画像ギャラリー】独自性と上質感を追求した造形を持つインフィニティQ45の写真をもっと見る!(5枚)画像ギャラリー80年代後半に日産が描いた高級車戦略の急先鋒
1980年代後半、国産車メーカーは、国内市場にとどまらず、世界を見据えていた。特にアメリカの高級車市場では、メルセデス・ベンツやBMWといった欧州勢が盤石の地位を築く一方で、新たな挑戦者の登場を許す余地もあったため、同市場を強く意識した。そして1989年、トヨタは「レクサス」を、ホンダは「アキュラ」を立ち上げて旋風を巻き起こす。
こうした流れのなかで、日産も海外の高級車市場に打って出るのだが、同社は「技術の日産」と称される確かな技術力を背景に独自性を備えた高級車の開発に着手し、米国市場を見据えた新ブランド「INFINITI(インフィニティ)」を立ち上げる。その第1弾モデルとして世に送り出されたのが、「インフィニティQ45」だ。
インフィニティQ45はそれまでの日産製高級サルーンとはひと味違った。日産が世界の高級車市場に真っ向から挑むための象徴であり、同時に「従来の価値観に縛られないラグジュアリーの新提案」でもある。その傾向はスタイルから見て取れた。
インフィニティQ45のエクステリアは、従来の高級セダン像を覆す挑戦から始まっている。フロントにおいて象徴的な存在だったグリルをあえて排した「グリルレス・フロントマスク」は、そうした狙いから採用したデザインだ。
グリルの代わりにフロントで個性を主張するアイテムが、日本の伝統工芸を用いた七宝焼きのフロントオーナメントだ。機能はあえて横において、文化的背景をデザインに落とし込むことで独特の存在感を放っている。
ロングホイールベースを活かしたサイドビューは、直線的な剛性だけでなく、しなやかで伸びやかなラインによって構成されたことで、走行時の動感を予感させるスポーティな印象を獲得。同時に余裕あるプロポーションは、ラグジュアリーサルーンとしての風格を備えている。
また他車と一線を画す要素として、ディテールにも徹底したこだわった。ダイキャスト製のドアハンドルは握った瞬間の重量感を演出し、アルミ製のサイドウインドウモールは光を受けて硬質な輝きを放つ。こうした素材選択は、視覚的な美しさだけでなく、触覚や質感にまで訴えかける仕上がりを実現している。
快適性と先進性を極めたうえで日本的美意識も融合
インフィニティQ45のスタイリングは、単なる装飾の寄せ集めではなく、独自性と上質感を一貫して追求した哲学の表現といえよう。
グリルレスのフロントに象徴される大胆さ、日本的工芸を組み合わせた繊細さ、素材への徹底したこだわり。そこに「トワイライトカラー」という新感覚の塗装を組み合わせることで、Q45はラグジュアリーカーの新しい在り方をも提示している。
こうしたこだわりは車内にも散見される。車内は、乗員を優しく包み込むように構成された柔らかな曲面基調のデザインを特徴としている。
操作性を重視したスイッチ類の配置と相まって、ドライバーと乗員双方に心地よさを提供する作りは、単なる高級感にとどまらず、「使いやすさ」と「安心感」を兼ね備えた設計思想が息づいている。
また、高級車らしく、豪華で装備内容も充実しているが、特筆すべきは当時としては世界的に見ても珍しい「オートドライビングポジションシステム」の採用だった。これは乗降時の利便性を大幅に向上させる革新的な機構である。
降車時にドアを開ける、あるいはキーを抜くと同時に、運転席が自動的に後方へスライドし、ステアリングホイールが上方へ跳ね上がる。乗車時は着座後にキーを差し込むと、運転席とステアリングホイールは元の位置に戻り、ドライビングポジションが自動的に復元される。
この仕組みにより乗り降りの動作が格段にスムースに行え、ドライバーはラグジュアリーセダンにふさわしいホスピタリティを実感できるのだ。
さらに注目すべきは、オプションとして設定された 「KOKONインスト」だ。これはインストルメントパネルに漆を塗布し、その上にチタン粉を吹き付け、さらに金粉を蒔絵のように散りばめることで、モダンな感覚と日本伝統工芸の美を融合させたものだ。
西洋的なラグジュアリーに対抗するのではなく、日本ならではの美意識を積極的に取り入れることでインフィニティQ45の哲学を表現している。







コメント
コメントの使い方前期型ばかりが話題になりますが、グリルが付いた後期型のデザインは、元々洗練されたインテリアも含め今見ても非常に美しいデザインだと思います。
何で肝心の販売実績や市場評価、そしてマイナーチェンジでグリルが付いた点に触れないのさ?