日産 パルサーGTI-Rが「悲劇のWRCラリーマシン」と呼ばれた理由【愛すべき日本の珍車と珍技術】

ハイパワーを確実に路面に叩きつけるメカニズムを採用

 トランスミッションは、専用セッティングが施された5速MTとなる。シンクロ容量の拡大やクラッチの強化が行われ、エンジンが発生する動力を余さず路面に伝える仕様となっていた。ギア比は通常仕様のほか、ラリーなどの競技用にはクロスレシオ版が用意され、WRC向けには専用の6速クロスレシオギアボックスも開発されていた。

 駆動システムには、日産独自のATTESAを採用。ATTESAはビスカスカップリング付きセンターデフを用いたフルタイム4WDで、リアにはビスカスLSDを装備。これによりエンジンのパワーをしっかりと路面に伝達し、悪路走破性と安定性を高次元で両立させていた。

バンパーやグリルに大きな開口部を設け、ボンネットにはエアインテークとルーバーが追加された。こうしたアイテムによって大量の走行風を取り込み、熱を効率よく排出できるよう工夫されている
バンパーやグリルに大きな開口部を設け、ボンネットにはエアインテークとルーバーが追加された。こうしたアイテムによって大量の走行風を取り込み、熱を効率よく排出できるよう工夫されている

 足まわりはフロントがマクファーソンストラット、リアがパラレルリンクストラットをベースに専用チューニングされた。ショックアブソーバーの減衰力、コイルスプリングのレートに関しても、競技車両さながらの硬質なセッティングが与えられていた。

 ブレーキはフロントがベンチレーテッドディスク、リアはディスクを採用。ローターの拡大やキャリパー剛性の強化に加え、タンデム倍力装置や冷却用エアダクトも備え、連続したハードブレーキングにも耐える仕様とされた。

 こうした高性能メカニズムを支えるべく、ボディ本体や各パーツ取付部には入念な補強が施されていた。結果として、コンパクトなハッチバックながらも高いボディ剛性を実現し、WRC参戦を視野に入れたロードカーとして、完成度と戦闘力を高めていた。

WRCで敗れてもなお強烈な存在感を放つ伝説の1台

1991年から参戦したが翌92 年のスウェディッシュラリーの総合3位が最高位。しかし改造範囲の狭いグループNでは年間タイトルを獲得し、高いポテンシャルを証明
1991年から参戦したが翌92 年のスウェディッシュラリーの総合3位が最高位。しかし改造範囲の狭いグループNでは年間タイトルを獲得し、高いポテンシャルを証明

 1991年、日産はWRCグループAにパルサーGTI-Rを投入した。2Lターボ+ATTESA 4WDという強力なパッケージを携えたものの、結果は芳しくなかった。1992年のスウェディッシュラリーでの総合3位が最高位で、その後は成績が振るわず、熟成を待つことなくわずか2シーズンでワークス活動は幕を閉じた。

 WRCでは苦戦を強いられたが、市販モデルには着実な改良が加えられていった。1991年10月には、マニュアルミッションのシンクロ容量を拡大し、クラッチペダルの支持部に補強板を追加する。

 1992年8月には、内外装の一部デザイン変更に加え、インテークマニホールドサポートの補強、オルタネーターステーの追加、リザーブタンクの改良など、細部に至るまで改良が進められた。さらに生産体制にも変化があり、当初日産栃木工場で製造されていたボディは、1991年5月より提携関係にあった富士重工(現スバル)に移管された。

ボディ各部には専用設計のエアロパーツが与えられている。リアまわりでは大型スポイラーが遠くに印象的である
ボディ各部には専用設計のエアロパーツが与えられている。リアまわりでは大型スポイラーが遠くに印象的である

 WRCグループAでは苦戦したGTI-Rも、改造範囲が制限されたグループNや国内ラリーでは輝きを放った。堅牢なメカニズムと高いポテンシャルは多くのプライベーターに支持され、年間タイトルを獲得するなど、むしろグループA以上の好成績を残している。

 ワークスが去ったあともGTI-Rはモータースポーツの現場で生き続け、マシンポテンシャルが高い水準にあることを証明するとともにファンに夢を与えた。

 パルサーGTI-Rは、WRCでは“敗者”として記録されたかもしれない。しかし、プライベーターや市販車市場にとっては“勝者”として記憶されている。失敗と成功、その二面性こそが、このマシンを伝説に押し上げ、今もなお多くのクルマ好きの記憶に残っている理由と言えるだろう。

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