クルマを購入する時、ユーザーはデザインや機能、価格などが自分の使い方や予算に合った車種を選ぶ。
例えばセダンであれば、外観のカッコ良さ、上質な内装、走行性能などが重視され、メーカーもそこに力を入れて開発を行う。
ミニバンは多彩なシートアレンジや自転車の積みやすさ、SUVはセダンとミニバンの中間で、存在感の強い外観や走りの良さ、居住性や積載性が重視される。
ところが車種によっては、コンパクトなセダンなのに居住性が優れていたり、ミニバンでありながら走破力の高い車種がある。
平均的なユーザーニーズと車両の特徴が噛み合わず、売れ行きは伸び悩むが、優れた特徴を備えた商品も少なくない。ここではそれを取り上げたい。
文:渡辺陽一郎 写真:平野学、池之平昌信
■地味だけど実力派のミドルクラスセダン【ホンダ グレイス】
セダンではホンダグレイスがある。全長は4450mm、全幅が1695mmに収まる5ナンバーサイズのセダンだが、売れ行きは低調だ。
ボンネットの短いボディはセダンらしいスマートさが乏しく、ホンダも販売に力を入れない。その結果、営業車などに使う法人ユーザーの比率が高まった。
しかし試乗するとメリットの多いクルマであることに気付く。運転のしやすい5ナンバー車なのに、フィットと同じ空間効率の優れたプラットフォームを使うことで、後席の足元空間はLサイズセダン並みだ。
前後席ともに座り心地も良く、大人4名が乗車して長距離を快適に移動できる。燃料タンクを前席の下に搭載したから、トランクスペースの容量も大きい。
さらにコンパクトセダンでは乗り心地が上質だ。先ごろ改善を受けたフィットよりもさらに快適で、ボディ剛性を高めやすいセダンの良さを実感できる。
安全装備のホンダセンシングも用意され、衝突の危険が生じると歩行者への対応を含めて緊急自動ブレーキが作動する。
車間距離を自動制御できるクルーズコントロールも採用したから、高速道路の長距離移動も快適だ。選ぶ価値の高いセダンとなった。
■唯一無二のミニバン【三菱 デリカD:5】
ミニバンでは三菱デリカD:5。1か月に800〜1000台を安定して売るが、人気車とはいえない。発売から10年以上を経過して、デリカD:5を何台も乗り替える限られたファンに支えられている。これは優れた商品の証でもあるだろう。
プラットフォームと4WDシステムは基本的にアウトランダーと共通で、前後輪に駆動力を振り分ける油圧多板クラッチには、締結力を強めて伝達効率を高めるロックモードを装着した。
最低地上高は210mmに達するから悪路のデコボコも乗り越えやすく、走破力はSUV並みだ。ミニバンの4WD仕様ではナンバーワンになる。
エンジンはガソリンと併せてミニバンでは唯一のクリーンディーゼルターボを設定。最大トルクはガソリンエンジンの3.5Lと同等で、燃料代は軽油価格の安さも手伝って、2Lのガソリンエンジンを積んだミニバンと同程度に収まる。
そしてデリカD:5は居住性も優れている。特にほかのミニバンに差を付けるのは3列目シートの頭上と足元の広さで、全長が4800mm以下のミニバンでは、多人数乗車時の居住性が最も快適だ。
デリカD:5の走破力は有名だが、快適な居住性、ディーゼルの設定は意外に知られていない。また乗り心地も快適だ。緊急自動ブレーキの非設定など設計の古さを感じる機能も多く、改善は必要だが、乗るとイメージが変わるだろう。
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