2020年6月のフルモデルチェンジ以降、圧倒的な支持を集めている、トヨタハリアー。2020年10月の販売台数は9,674台、ライズ(13,256台)に続いてSUVとしては2番目に多い販売台数となっている。
総額400万円に近い高額車だが、そのスタイリッシュなデザインによる存在感の高さが、日本人には受けているのだろう。ガチンコ競合するライバルがハリアーにはいないことも、ハリアーの強さの要因となっていると思われる。
このハリアーのライバルとして思い出されるクルマといえば、日産「ムラーノ」であろう。日本市場では2015年、2台目の販売終了と共に姿を消してしまったが、3代目となったムラーノが、北米では現在も販売されている。クーペ風クロスオーバーSUVジャンルにおいて、ハリアーに対抗できる日本車は、このムラーノしかない!!
ムラーノが日本に戻ってくる可能性はないのか、3代目ムラーノの姿に迫りつつ、考えてみようと思う。
文:吉川賢一
写真:NISSAN、TOYOTA
【画像ギャラリー】やっぱりいいぞ!! 北米専売のクーペSUV、Z52ムラーノを写真でチェック!!
Z52ムラーノは「わりとお買い得なクルマ」
初代「Z50ムラーノ」が誕生したのは2002年のことだ。ムラーノは、ティアナにも使われていたFF-Lプラットフォームを使用した2列シート5人乗りのクロスオーバーSUVであり、北米専売車として開発されたクルマだ。しかし、そのデザインの斬新さに、国内市場から販売熱望の声が上がり、2004年、日本でも発売となった。
伸びやかな「モダンアートデザイン」のコンセプトは、2代目「Z51ムラーノ」(2008年~2015年)、3代目「Z52ムラーノ」(2015~)へも引き継がれている。現行型のZ52は、北米のみならず中国やロシアなどで、「NISSANのスタイリッシュなSUV」として、世界的に認知されており、今なお好評を得ている一台だ。
Z52ムラーノのサイズは、4887 mm×1915 mm×1720 mm(全長×全幅×全高)。ハリアー(4740 mm×1855 mm×1660 mm)と比べると、ひと回り大きく、アメリカンな雰囲気と、煌びやかな雰囲気を併せ持つ。
LEDのデイライトを仕込んだブーメラン型ヘッドライトや、大きなVシェイプグリル、所々に入ったシルバーの加飾によって、ド派手なフロントフェイスとなっている。
サイドビューも、後端までつながったように見える流麗なウィンドウグラフィックや、なだらかに傾斜するルーフラインなど、クーペ風のルックスが、なかなかスタイリッシュでかっこいい。
バンパー下部から、サイド、リアにまで回り込むアルミ調の加飾や、18インチもしくは20インチの大径タイヤホイールも、ムラーノの厳つさとシャープさを、一層引き立てている。
インテリアも豪華だ。木目調パネルや、幅広のセンターコンソール、豪華な本革シートなど、ラグジュアリーな要素がバツグンだ。たっぷりとしたシートに座るだけで、おおらかな気分にもなる。車幅が1900 mmを超えているおかげで、左右席の間の余裕もあり、後席も非常に広い。
ナビゲーションシステムのサイズやデザインは、最近やっと出てきた最新の日産車に比べると、時代遅れを感じるが、Apple Car playやAndroid Autoは標準装備となる。エンジンはパワフルな3.5L V6エンジンの一本、FFと4WDが選択できる。
現地での価格は31,730ドルからで、日本円に換算すると約330万円。V6エンジン車がこの価格で手に入ると考えれば、リーズナブルにも感じる。
しかし、デザインだけでは成功できない
「Z52ムラーノは日本市場でもいける!! すぐにでも導入すべし!!」と言いたいところなのだが、残念ながら、そうはいえない。Z52ムラーノには、日本市場ではネックとなる要素が2つある。
ひとつは、大きすぎるボディサイズだ。初代ムラーノが北米市場でヒットしたことで、2代目以降、北米需要に合わせるために、ボディサイズをひと回り大きくした。しかもフロント端がスラント形状であったため、クルマの4隅の見切りが非常に悪く、狭い日本国内の道路事情では、運転がしづらかった。
国内で売れ筋SUVにするならば、ハリアーサイズである、車幅1850mm前後に抑えることが、絶対条件だ。
もうひとつは、燃費の悪さだ。ムラーノは、アメリカ人が求めるピックアップ(加速)の良さを重視し、パワフルな3.5L V6ガソリンエンジンが投入された。

日本には、2.5L 直4ガソリンエンジンも導入されたが、1.6トンを超えるムラーノのエンジンとしてはやや非力で、その分アクセルを踏み込んでしまうため、2.5L エンジンであっても、燃費はよろしくなかった。
北米専売車のZ52では、3.5L V6の1本のみ。年々、燃費は改善してきているとはいえ、北米基準で、市街地走行20MPG(約8.5km/L)、高速走行28MPG(約11.9km/L)、市街地と高速走行の複合モードで23MPG(約9.8km/L)と、ハイブリッドSUVが走る日本市場では、戦うに値しないレベルなのだ。
ちなみにハリアーは、2005年の2代目からハイブリッドモデルを導入しており、当時の10・15モード燃費で17.8km/Lを達成、2020年6月登場の4代目ハリアーでは、22.3km/L(2WD、4WDは21.6km/L)を達成している。
2代目ムラーノの日本市場からの撤退理由となった「ボディサイズ」「燃費」のいずれか1つでも解消されないことには、デザイン一本勝負だけでは、どうにもならない。その点は、日産もよく理解しているだろう。