米国に渡った琢磨に感じたF1時代との違い
佐藤選手がインディ500で優勝できた理由はいろいろ挙げられるが、アンドレッティ・オートスポーツというトップチームに移籍し、勝てるマシンを手に入れたことは絶対に外せない。
インディカーシリーズにおけるホンダエンジンは、F1のように非力ではなく、また複数の優秀なドライバーを抱えるアンドレッティにとっても、シリーズで唯一の日本人として、またエキサイティングでポピュラーなドライバーとして、すでに地位を確立している佐藤選手の加入は、優秀なコマを増やす意味でも大歓迎だったはずだ。
佐藤選手がまだAJフォイトレーシングに在籍していた頃、ミッドオハイオへ取材に行ったことがある。
インディ500と同じシリーズ戦とは思えない、周りには広大なジャガイモやトウモロコシ畑しかない超ド田舎の、路面のうねりまくったコースでの一戦は、大相撲でいえば『地方巡業』という雰囲気。
しかしレースはインディ500と同様、エキサイティングな競り合いがここかしこで見られる、とてもハイレベルな内容だった。
佐藤選手はマシンもイマイチ、セッティングもスパっとは決まらず苦戦を強いられていたのだが、その表情に暗さはなかった。
「いやー、大変です!」と言いつつ、その大変ささえも楽しんでいるように思えた。
F1の最後の数年、常に奥歯に何かを挟んでいるような表情で当たり障りのない話をしていた頃とは大違いの様子に、私が「アメリカに来て良かったね」というと、佐藤選手は一瞬、何の話かわからないという表情を浮かべたが、すぐにちょっと笑って軽く頷いた。
「大変は大変ですよ(笑)。でも、そうですね。その通りかもしれません」。
そしていま、もし同じ質問をしたら、佐藤選手はきっと大きく相槌を打ちながら笑顔でこう答えてくれるに違いない。
「本当にその通りでした!!」と。
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