■ホンダF1撤退でレッドブルは……
しかし、そのワークス活動には終了宣言が出され、ホンダPUがこれ程高性能にもかかわらず、ホンダF1撤退の事実は変えようもない。この撤退に最もダメージを受けるのはもちろんレッドブル軍団だ。このままホンダ撤退ならば2チームは搭載PUを失ってしまう。
実際ホンダ撤退発表を受けて、メルセデスは早速レッドブルへの供給はしないと宣言。ルノーはカスタマー待遇ならばOK、フェラーリはコメントなし……。つまり戦えるPUどころか、搭載PUに選択肢がなくなってしまう。
そこでレッドブルは、ここで新たな戦略を立て、レッドブル・パワートレインによる自製PUの製造を決めた。しかし、これでは来年には間に合わない。
そのためレッドブルはホンダと契約を交わし、ホンダPUを知的財産として受け継ぎ、少なくとも26年からの新規則PUまでの間はホンダPUを継続使用することが決まった。そして26年以降は独自のレッドブルPUを製造・搭載するという。
この独自PUの設計開発のためにレッドブル・パワートレインを設立。さらにミルトンキーンズにファクトリーを新設し、ここで25年までは受け継いだホンダPUのメンテナンスと管理、そして26年以降は独自の新レッドブルPUの設計開発を行うというのだ。
ところが先日、ホンダは新たな体勢を発表した。来期からホンダワークスはアナウンス通りF1から撤退をするが、ミルトンキーンズのHRD UKの地元スタッフは全員そのままレッドブル・パワートレインに移籍、今後もレッドブルのPUの整備開発を継続し、ホンダもサポートを行うというのである。
■MOTO GPを中心に活動してきたHRCがレッドブルF1をサポートする
サポートするのはホンダワークスではなく、これまでMOTO GP(二輪ワールドチャンピオンシップ)を中心に活動してきたホンダの子会社HRC(ホンダ・レーシングコーポレーション)が行うという。HRCからのサポートには、日本人技術者(もちろんホンダのエンジニア達)の派遣も含まれるのだとか。
またレッドブル・パワートレインのファクトリーはまだ出来ていないので、いままで通りミルトンキーンズのHRD UKで作業を続けるそうだ。
つまり、名前がHRD UKからレッドブル・パワートレインに変わり、HRDサクラはHRC扱いに変わっただけで、事実上来期以降もほぼ現状通りの体勢が維持される事になったわけだ。
企業としてのホンダはF1から撤退をし、F1への予算は以後計上されず、会社内のF1部門は消滅するのだろうが、F1を担った技術や技術者はHRCという別会社に移管され、新たにカスタマーサービスという形でホンダF1のPUは生き続けてゆく。
ホンダF1第二期の終了後、V10は無限エンジンとしてF1に残り、その技術を第三期へと繋げたように、第四期はここで終了しても、HRCを通じてレッドブル・パワートレインと共に技術を残し、繋げてゆく。
知的財産の提供という形は25年に終了はするが、スタッフや技術的ノウハウはレッドブル・パワートレインに継承されてゆく。だからこそ、後に新たなホンダF1第五期が訪れるのではとの期待が生まれてくるのだ。
TETSUO TSUGAWA
TETSU ENTERPRISE CO, LTD.
津川哲夫
1949年生まれ、東京都出身。1976年に日本初開催となった富士スピードウェイでのF1を観戦。そして、F1メカニックを志し、単身渡英。
1978年にはサーティスのメカニックとなり、以後数々のチームを渡り歩いた。ベネトン在籍時代の1990年をもってF1メカニックを引退。日本人F1メカニックのパイオニアとして道を切り開いた。
F1メカニック引退後は、F1ジャーナリストに転身。各種メディアを通じてF1の魅力を発信している。ブログ「哲じいの車輪くらぶ」、 YouTubeチャンネル「津川哲夫のF1グランプリボーイズ」などがある。
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