なぜトヨタは日本人からセルシオを奪ってしまったのか?
売れてなかったならまだしも、トヨタのフラッグシップサルーンとして地位を確立しユーザーから絶大なる支持を受けていたからこそ、その消滅を惜しむ声は今でも根強くある。
理由はレクサスLSに一本化するという戦略にあるのだが、今考えてももったいない。セルシオに代わるフラッグシップとなったマジェスタも今ではトヨタのラインナップから姿を消している。
セルシオはどんなクルマだったのか、中古で購入する場合、相場はどうなっているのか?どういう注意が必要なのか、を中古車のスペシャリストである萩原文博氏が考察する。
文:萩原文博/写真:TOYOTA
1989年にトヨタのフラッグシップとして誕生
かつて、クルマのカルチャーとして飛ぶ鳥を落とす勢いだったのがVIPセダン。各自動車メーカーのプレステージセダンの中古車をベースにエアロパーツを装着し、ガンガンに下げたローダウンサス大径のアルミホイールで決めたカスタマイズだ。
この流れは現在アルファード/ヴェルファイア、エルグランドに引き継がれているのは言うまでもない。
そのVIPセダンブームの中で誰もが憧れの的だったのが、トヨタセルシオだ。

セルシオは1989年に北米で立ち上げられたトヨタのプレミアムブランド「レクサス」の最上級車種であるLS400をエンブレムやハンドル位置を変更し日本市場に導入したモデルである。
これまでトヨタのフラッグシップセダンは「いつかはクラウン」でお馴染みのクラウンが君臨していたが、セルシオの登場でその地位を明け渡すことになった。そして、2006年に日本市場における初代LSにスイッチし、セルシオは3代に渡る歴史の幕を下ろした。
当時、最終型となる3代目セルシオからレクサスLSに乗り換えたユーザーから、セルシオのほうがよかったという声が多く聞かれた。
なぜ、そこまでセルシオは多くの人に支持されたのだろうか。改めてセルシオの凄さと今手に入れられるセルシオの中古車事情について紹介したい。

3世代とも最も売れたのは最上級のエアサス
トヨタのフラッグシップセダンとして販売されたセルシオは1989年10月~1994年9月まで販売された初代、1994年10月~2000年7月まで販売された2代目、そして2000年8月~2006年5月まで販売された3代目の3モデルとなっている。
搭載されるパワートレインは初代と2代目は4L、 V型8気筒DOHCエンジン+4速AT(2代目は1997年7月のマイナーチェンジで5速ATへ換装)。
そして3代目は4.3L、V型8気筒DOHCエンジン+5速AT(2003年のマイナーチェンジで6速ATへ換装)となっている。
グレード構成は3世代ともに共通で、コイルサスのA仕様、B仕様とエアサスを採用したC仕様の3グレードを用意。

世界の高級車のクルマ作りに影響を与えた 。写真は3代目の豪華なインテリア
最上級のC仕様したショーファードリブン仕様で後席の装備が充実しているFパッケージ、またコイルサスのA仕様、B仕様には欧州車のようなしなやかな乗り心地を実現したeRバージョンが設定されていた。
最も販売台数が多いのがエアサスのC仕様だが、中古車で購入する場合はこのエアサスが故障すると高額な出費が必要となるため、コイルサスのA仕様やB仕様が狙い目と言われてきたのは有名な話だ。

セルシオは高級セダンの革命児
なぜ、今でもセルシオがスゴイ! といわれるのか。まず取り上げたいのは専用のプラットフォームを採用していることだ。現行型のレクサスLSは名称こそ違うものの基本的には同じプラットフォームを採用している。
まず、この点だけでもセルシオの凄さはわかる。プラットフォームを開発するには莫大な費用がかかる。したがって現在では共通化を行っているのだ。しかし、セルシオは専用設計のプラットフォームを採用していたのだ。

だからこそ、初代セルシオ(レクサスLS400)を当時メルセデスベンツが研究し、Sクラスを作ったと言われるように高い走行性能、静粛性そして乗り心地のよさといった高級セダンに求められる性能を実現していたのである。
2代目セルシオの1994年~1997年までの前期モデルはバブル崩壊の影響によってコストカットが進んだため、セルシオの中では残念なモデルといわれているが、フルモデルチェンジに匹敵するマイナーチェンジによって後期型は人気を回復。
そして、3代目でセルシオ伝説は完成するのであった。


しっかりメンテナンスしていれば20万kmでも楽勝

日本の高級車に燦然と輝く歴史を残したセルシオだが、まだ中古車で手に入れることができる。現在でも初代モデルが約25台、2代目が約100台、そして最終型の3代目が約400台も流通している。
年式を考えるとセルシオの中古車で狙い目は3代目と言える。平均価格はすでに底値に達しているようで、3カ月前から今月まで約49万円でほぼ横這いとなっている。
いっぽうの流通台数は3カ月前には約500台もあったのだが、今月は約400台とわずか3カ月で約100台も市場から姿を消してしまったのだ。
最終年式でもすでに13年落ちとなっているので、商品となる個体も減っているだろうし、自動車税も割増しとなるなど、セルシオの中古車を取り巻く環境は厳しい。
3代目セルシオの中古車の価格帯を見てみると、約12万~約298万円と幅が広く。現在でも150万円以上の物件がゴロゴロしている。さすがに現在流通している中古車でVIP仕様は少なく、ノーマル車が中心となっている。
もちろん走行距離が10万kmを超えている中古車が多くなっているが、以前販売店で取材をしたときに、厳選したパーツを採用したセルシオはしっかりとメンテンスしていれば、20万kmぐらいは致命的なトラブルは出にくいと言われたことがある。
それを信じられるとすれば、中古車として流通している3代目のセルシオはまだまだ賞味期限があるということになる。まだまだトヨタが精魂打ち込んだフラッグシップセダンのセルシオは味わえるのだ。
