クルマは工業製品だから、だいたい新しい方がいいに決まってる。
とくに、最近は電動化にる燃費向上や自動ブレーキをはじめとする安全装備の充実で、昔のクルマとは比較にならないくらい各種機能が向上。知り合いにクルマ選びを相談されたら、「足として使うなら新車を選びなさい」とアドバイスする。
ただし、これが「クルマ趣味」の領域に入ると、逆に「昔の方が良かったよねぇ」というケースも多くなる。
クルマ好きの間で有名な「最良のポルシェ911は常に最新のポルシェ911である」というフレーズも、水冷化してこんなにボディが巨大化しちゃった現在、多くの人が「いやいや、空冷時代の方がよかったのでは?」と旧モデルを懐かしむ。
このあたりがクルマ趣味のユニークなところ。普通の工業製品だったら、自動ブレーキもない、カーナビもない、燃費も悪い、そんな昔のクルマのほうが良かったなんて、たぶん言わない。クルマを趣味的に見ると、どうしてもエモーショナルな部分に引っ張られちゃうのだ。
(編集部注/以下、本稿では自動車ジャーナリストの鈴木直也氏に、「現行国産スポーツモデルを、それぞれ最新型と、そのモデルの歴代型の中で最高のモデルと比べてみて、どっちが「最高か」を教えてください」とお願いしてみました)
文:鈴木直也
■マツダ ロードスター 現行型登場2015年5月
われわれクルマ好きは、どうして最新モデルより昔のクルマに心惹かれてしまうのか。いくつか理由はあるが、まずひとつ代表的なのが、複雑で高度化した現代のクルマへに対するアンチテーゼだ。
その代表例がマツダロードスターだろう。
ロードスターは1989年デビューの初代NA型からして「現代では失われた素朴な走りの楽しさ」というノスタルジー路線が基本コンセプト。そのキャラクターのまんま、4世代25年以上ブレないクルマ造りを続けている。
ただ、最初にそういう設定のクルマを造られちゃうと、開発をバトンタッチされた後継エンジニアは苦労する。
スポーツカーなんだから動力性能向上は義務といってもいいし、シャシー性能の近代化だって必要。NB、NCはこういう“正常進化路線”に則ったモデルチェンジを行なった。
平井さん(敏彦・初代ロードスター開発主査)からロードスターを受け継いだ貴島さん(孝雄・2、3代目ロードスター開発主査)としては、たぶん他にやりようがなかったと思う。
ただ、いま思い返すとそれでよかったのかは微妙。技術的進化は時間が経つと陳腐化するが、素朴な走りの楽しさはエバーグリーン。「やっぱりNAが楽しかったよね」という声には敵わない。
そういう難しい状況で4代目NDを任された山本さん(修弘・4代目ロードスター開発主査)も大変だったろうが、ロードスターの基本精神だけを受け継いで、すべてのコンポーネンツを近代化するという作戦が見事な花を咲かせた。
4代目NDの開発スローガンは「守るために変えてゆく」というものだったそうだが、ライトウェイトスポーツという基本コンセプトをただ墨守するのではなく、それを最新の技術で再構築したところに意義がある。
メカニズムではなく人間を研究することでNDロードスターは初めて初代NAを乗り越えた。ぼくが「最新モデルがベストロードスター」と評価するのはそんな理由からだ。
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