例年になく暑い夏もようやく一段落し秋らしい日々がやってきた。秋というと運動の秋や読書の秋、食欲の秋などいろいろと楽しむ季節のイメージであるが、今回は考古学の秋として現在話題のスポットを尋ねてみた。
文/写真:東出真
編集:古川智規(バスマガジン編集部)
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■国宝がこんなところに!
場所は三重県松阪市である。三重県の中央部に位置する街で東は伊勢湾に面し、西は奈良県との県境にも接する。暖かい気候に恵まれながら県境付近にそびえる高見山では冬は白銀の世界となり樹氷も見られるという様々な景色が楽しめる。また松阪市といえば世界的にも有名なのは松阪牛であろう。ブランド牛として高い人気を誇っている。
そんな松阪市では先日うれしいニュースが舞い込んだ。市所有の船形埴輪(ふねがたはにわ)など「三重県宝塚一号噴出土埴輪」が発見から24年という期間を経て、国宝の指定を受けたのだ。2024年3月に国宝指定の答申を受けていたが8月27日官報による告示により、正式に国宝になった。松阪市としても初の国宝であり大きな話題となった。
件の船形埴輪が展示されているのは、松阪市文化財センターはにわ館である。松阪駅からは市内を巡回するバス「鈴の音バス」に乗車して10分、「クラギ文化ホール」バス停で下車すると大きなレンガ造りの建物が視界に入るので目指して歩いて行けば良い。
■古墳の中から原形をとどめた埴輪が出土!
鈴の森公園の一角に松阪市文化財センターがある。重厚なレンガ造りの建物は大正12年建築の旧カネボウ綿糸松阪工場綿糸倉庫(国指定登録有形文化財)を活用したギャラリーとなっており、その奥に2003年3月に開館したのがはにわ館である。つまり、文化財の中に国宝があるというものすごい状況なのだ。
船形埴輪は市街地から南に3kmほど離れた場所にある宝塚古墳で発見されたもので、昭和40年代以前まで80基以上の古墳があったという。ここには一号墳、二号墳があり、一号墳は伊勢地方では最大の前方後円墳、二号墳は帆立貝式の古墳である。宅地の造成工事などでほとんど姿を消してしまったが、1999年から宝塚古墳を保存・管理するための発掘調査を行ったところ、一号墳で他に類例のない姿の船形埴輪が見つかり全国的に注目を浴びた。
特に一号墳の北側にある「造り出し」という平らな舞台のような場所からは140点もの埴輪がほぼ当時の位置で見つかり、古墳で行われた古墳祭祀(さいし)「まつり」の様子を研究するうえでとても貴重な資料となった。
■いったいどんな豪族が?
2000年4月に出土が発表された船形埴輪は全国でも類例のない、王の権威を示すつえ「威杖」(いじょう) などを模した威儀具を装着できるパーツ式の構造となっている。船の上にこうしたものが載っている様子は、これまでは線刻画などでしか確認されていなかった。
また大きさもこれまで全国で出土した同種の埴輪の中では最大の全長1.4mである。他にも船形埴輪が台座となる円筒埴輪とセットで出土されたり、船首側と船尾側の甲板に障壁でそれぞれ区切られた空間が初めて確認されたりと、注目すべき点が多く発見された。
館内には出土された埴輪が展示されているほか、企画展示やロビーには過去に松阪市で行われた発掘調査の様子や文化財センターが主催した行事の写真展示などがある。またホールに展示されている本物の土器や埴輪は実際に手で触ることも可能だ。