趣味のクルマが仲間を増やしてくれ、仲間が趣味人をつなげてくれる。旧車には登場したての新型車とはまた違った楽しさがある。
オースティン・ヒーリーと出会い、その魅力に目覚めた「いのうえ・こーいち」氏が、自身の旧車の楽しみ方を語る。
文:いのうえ・こーいち/写真:いのうえ・こーいち
BestCar PLUS 2016年7月18日号
ヒーリーとの付き合いは、カミサンよりも長い
クルマ好きの間では「カニ目」、「カニさん」が通り名になっているクルマ。それだけでフツーでないことが伺い知れるではないか。そのフツーでないクルマと暮らして、すでにン十年になる。
カミサンよりも長い。
オースティン・ヒーリー・スプライトMk Iという長い正式名称の英国製スポーツカーは、1958年にデビューした。もちろんその当時のことなど知り得ないのだが、クルマが好きになって、趣味のクルマが欲しいと思ったとき、一番先に思いついたのが「カニ目」だった。
ひとつに個性的であること。それでスポーツカー・テイスト満々であること。それになにより、安価で入門編として人気だった、という理由で選んだ。
まあ、入門編なのだから、物足りなくなったら上級移行すればいい。そんなつもりで購入したのだが、最初に買った「カニさん」の次も「カニさん」、そしていまは三代目の「カニさん」を愛用している。
この三代目はレストア前のものを米国から輸入し、自分たちの手で仕上げた。先生役の友人のおかげが大半なのだけれど、とにかくエンジンから、足周りから、内装、シートまで半年掛かりで頑張った。
つまり「カニさん」でよき時代のシンプルなクルマのしくみのすべてが勉強できた。それだけでなく、「カニさん」のおかげで趣味の友人が圧倒的に増えた。「これなんていうクルマですか?」にはじまって、同じクラシック所有者なら「お互い楽しいクルマ生活ですよねえ」
もしも「カニ目」オーナーだったらもう大変。「あ、何年式で?」にはじまって、どこで購入してどう遊んでいるか、メンテするショップは? 果ては故障自慢まで話は尽きない。
趣味のクルマが仲間を増やしてくれ、仲間が趣味人をつなげてくれる。振り返ってみるとそういう連鎖が、一台の小さな「カニさん」からはじまったのだ。それが判ったときから、もう離れられない存在になった、というわけだ。
この春から、そんなクルマ趣味の季刊誌「趣味人倶楽部」をはじめた。いかに趣味のクルマとオーナーとのつながりが深いものか、たくさんの趣味人にお話を伺って、ますます我が「カニさん」の存在の大きさを感じたりしている。
で、もしもちょっとでも趣味のクルマに興味のある人がいたら、まずなにはともあれ一台、ちょっと旧いクルマと生活してみることをおすすめする。楽しいコトはもちろん、苦しみもまた趣味仲間には共通の楽しみになってくる。まあ、騙されたと思って、楽しいドロヌマ趣味世界へ。
Austin Healey Sprite Mk I
1958年から1960年にかけて生産された英国製ライトウェイトスポーツ。全長3490×全幅1349×全高1260㎜、602㎏の軽量ボディに、43馬力を発生する948㏄、直4 OHVエンジンを搭載する。
エンジンパワーは強力ではないが、軽量ゆえ当時最高クラスの性能を誇っていた。ちなみにイギリスでの愛称は「The Frog Eyes(カエルの目)」。
いのうえ・こーいち
コンパクトなスポーツカーを好む岡山県生まれの写真家、乗り物愛好家。現在『ベストカー』においても連載「旧車倶楽部」を執筆中
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