おなじみチャレンジャー武井(チャ武)がベンツ SLRマクラーレンに試乗。マクラーレンF1チームの黄金時代を築いた名エンジニア、ゴードン・マレーのコダワリとメルセデスの技術が融合した奇跡のマシンを首都高でインプレッション!!
※本稿は2025年6月のものです
文:チャレンジャー武井/写真:音速movies ほか
初出:『ベストカー』2025年7月10日号
F1テクノロジーと市販車のノウハウが融合
1995年、マクラーレンとメルセデスがタッグを組んで以来、F1マシンにパワーユニットが供給され、現在も蜜月ぶりは健在。その象徴ともいえる存在が、このSLRマクラーレンだ。
F1テクノロジーと市販車のノウハウが融合し誕生したのは、公道を駆けるF1マシンそのもの。両社の英知を結集した、まさに走る芸術品をインプレッションした。
SLRプロジェクトは、メルセデスが基本構造とエンジンを担当、マクラーレンが設計と製造を手がけるという役割分担。
舵を取ったのは、伝説のレーシングカーデザイナー、ゴードン・マレー。マクラーレンF1チームに3年連続のコンストラクターズタイトルをもたらした名将であり、「市販車を設計したい」という彼の想いが、この夢のマシンを現実のものとした。
デザインモチーフには、1950年代に一時代を築いた名車、メルセデス・ベンツ300SLRを採用。ロングノーズ&ショートデッキのフォルムはもちろん、フロントフェンダーの巨大なエアアウトレット、サイド出しマフラー、跳ね上げ式ドア、エアブレーキなど、デザインオマージュが随所に盛り込まれた。
このマシンの凄さは、細部に宿る。たとえばボディ構造。1991年に発売されたマクラーレン初のロードゴーイングモデル「マクラーレンF1」で採用されたカーボンモノコックを、SLRではさらに進化させた。
従来のようにピースを接着したセミモノコックではなく、バスタブ型のワンピース構造とし、そこに各パネルを結合。ねじれ剛性は、なんと1度あたり3万Nmという驚異的な数値を実現。当時としては異次元の剛性を誇った。
メルセデスのラグジュアリーと戦隊ロボのような機構

コックピットに足を踏み入れると、上質な素材感に驚かされる。さすがはメルセデス、特にシートは秀逸で、高級感とスポーツ性を兼ね備え、体を包み込むようにドライバーと一体化する。まるで子どもの頃に憧れた戦隊ロボットの操縦席のような感覚すらある。
スターターボタンはシフトノブの先端を跳ね上げると現われるというギミック付き。戦隊ヒーローが出撃する際のような演出に、自然と胸が高鳴る。
ボタンを押せば、低く唸るエキゾーストとともに、AMGチューンのV8が目を覚ます。組み合わされるトランスミッションはAMG製5速AT。パドルシフトによるマニュアル操作も可能で、3つの走行モードが選べる。
メルセデスの品格&豹変する走りの“ギャップ萌え”
街中を流している限りでは、高級車然としたしなやかな乗り味。サスペンションは路面の凹凸を巧みに吸収し、音も静か。
ステアリングの応答性もリニアで、小径ハンドルのおかげで操作感も上々だ。ただ、跳ね馬や猛牛のような咆哮はなく、アメ車のようなエキゾーストサウンドなのが残念なところ。
ところが、首都高に乗ってアクセルを深く踏み込むと豹変! あれほど大人しかったマシンが、突如として獣のように牙をむく。このギャップこそが、SLRの真骨頂だ。
低回転から湧き出る猛烈なトルクで、一気に高回転まで吹け上がる。それでいてトラクションはしっかりとしていて、リアタイヤの空転もなくスムーズに加速していく。
ツインスーパーチャージャーによるフラットな出力特性は、高回転まで回してパワーを引き出すイタリア型ではなく、ジャーマン魂を感じさせる力強さと安定感がある。カタログ上の最高速334km/hは決して誇張されたものではなく、それを裏付けるパフォーマンスが確かにあった。

























コメント
コメントの使い方