自動車メーカーから発表された決算報告を見る限り、トランプ関税の影響は確実に出始めているようだ。比率が二転三転するなどまだまだ流動的なトランプ関税だが、国内自動車メーカーに与える今後の影響などを井元康一郎氏が解説する。
※本稿は2025年9月のものです
文:井元康一郎/写真:whitehouse.gov、ステランティス、マツダ、ホンダ、トヨタ、ベストカー編集部 ほか(トップ画像=whitehouse.gov)
初出:『ベストカー』2025年10月10日号
交渉により税率は引き下げられたが……
ドナルド・トランプ大統領が仕掛けたアメリカ合衆国の「相互関税」戦略が世界を激しく震撼させている。
日本の自動車メーカー各社が2025年4~6月の3カ月決算で公表した関税影響の合計額は7830億円。年換算で3兆円以上の利益が吹っ飛んだというのは被害甚大と言うほかない。世界の自動車メーカーもそれぞれ大きな影響を受けた。
損失が大きいのも道理。トランプ関税は税率が非常に高い。自動車・部品の場合、日本や欧州は15%、メキシコやカナダは25%、中国に至っては何と45%という高さである。さらに鉄鋼、銅、アルミニウムなどの素材については50%だ。
これでも日本や欧州は15%でとどまってくれてよかったと安堵している。当初はどちらも25%を突きつけられていた。日本は対米投資を大幅に増やすことを表明、欧州は米国からの輸入車の関税を撤廃するなどの譲歩案を出し、今の税率に収まったのだ。
米国市場は国別の販売台数では中国に次ぐ世界2位、生み出される付加価値の大きさでは世界トップという美味しい市場で、多くの自動車メーカーがお得意様としてきた。米国に対しては無関税、自身は15%の関税を課されるというのは屈辱的な“不平等条約”だが、米国との関係は断ち切れないがゆえの譲歩だった。
が、トランプ関税で米国への輸出で利益を出すのは難しくなった。自動車メーカー各社は米国で売るクルマは基本的に米国で作るしかないと判断し、米国への投資の大幅増強を続々と表明している。今のところは世界がトランプ大統領にいいようにやられてしまっている格好だ。
トランプ関税はWTO協定に反していないか?
関税とは国境を越えて商品をやり取りする時に、自国に入ってくる商品に政府がかける税金のこと。その歴史は長く、古代に人類が交易を行うようになった頃から存在した。
目的は今も昔も変わらず、国の財政を豊かにすることと国内産業の保護。輸入品に関税をかければ交易が活性化するほど国の財政も豊かになる。また輸入品のほうが国産品より品質がいい、価格が安いなど優越している場合、関税で輸入品の競争力を落とすことによって国内産業を保護することができる。
関税を課する関税自主権は、独立国家の権利のなかでも最重要項目のひとつとされ、現代に至っている。
トランプ関税で浮き彫りになったように、関税は巨大なパワーを持っている。野放図に関税をかけ合えば、戦争と同じで巨大市場を抱える大国が有利。20世紀初頭には「ブロック経済」と呼ばれる保護主義が横行し、それが国家間の対立の激化を招き、第二次世界大戦の一因になった。
その教訓から第二次大戦後、閉鎖的経済ではなく自由貿易を基本にしようという体制が組まれた。古くは関税及び貿易に関する一般協定(GATT)、現在の世界貿易機関(WTO)協定がそれで、関税は一定のルールの範囲内でかけるよう国際的に取り決められている。
そこで疑問が起こる。国によっては目の玉が飛び出るような高率の関税を一方的に課すトランプ関税はWTO協定違反ではないのか? ということだ。
結論から言えば、WTO協定違反である。にもかかわらずトランプ関税が止まらないのは、現在のWTOが紛争解決能力を失っているからだ。独立国家に言うことを聞かせられる機関がなければ条約や協定は空洞化する。トランプ関税はそこを突いたものだ。
米大統領は世界最強の権力者としばしば評されるが、トランプ大統領は世界経済を混乱のるつぼに陥れるような高関税を勝手に作ったわけではなく、法的根拠がある。
米国には1980年代、日米半導体摩擦の際に日本を悩ませた通商法301条、知的財産権の国際的な保護のためのスペシャル301条、国際緊急経済権限法(IEEPA)など、経済を含めた米国の安全保障に関わる事態が生じた時に大統領権限で対策を打つことを認める法律がある。
トランプ大統領はその法律を拡大解釈し、トランプ関税を実行に移した。


















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