スバルが世界に誇るトップスポーツセダンWRX STIの現行型が、生産を終了した。ファイナルエディションは驚異的な人気で即座に完売し、いまも根強いファンは次期型の登場を待ち望んでいる。
これだけのブランド力を持つWRX STIだけに、スバルも、そのポジションを理解し、次期型の開発を進めていると聞く。今回は、このモデルが、どのような背景を持ち、どれほど活躍してきたのか。WRX STIのこれまでの功績と現在の立ち位置、そして、今後の見通しと期待を、モータージャーナリストの片岡英明氏に分析していただいた。
文:片岡 英明、写真:スバル
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WRCで育まれたスバルのコンプリートカー
WRC(世界ラリー選手権)で勝利し、スバルの商品イメージを高めるために開発され、送り出されたのがインプレッサWRXをベースにしたコンプリートカーの「WRX STI」だ。
その心臓は、1989年にレガシィとともにデビューした排気量1994ccのEJ20型水平対向4気筒DOHCインタークーラー付きターボである。スバルは1960年代半ばから低重心の水平対向エンジンをコアテクノロジーにしているが、EJ20型エンジンもビッグボア設計とした。マルチバルブで広いバルブ開口面積を確保でき、高回転を苦にしないからだ。
ターボチャージャーと大容量インタークーラー加えたEJ20型エンジンのなかで、存在感が際立っているのは1992年10月に誕生したインプレッサWRXの心臓である。1993年秋にはWRCにデビューし、栄光の神話が幕を開けた。スバルのモータースポーツ部門を統括しているSTI(スバル・テクニカ・インターナショナル)が、WRC参戦マシンと並行して開発を進めていたのがWRXのBタイプをベースにしたコンプリートカーだ。
鍛造ピストンを採用し、マフラーやサスペンションなどもチューニングした最初のWRX STIは、1994年1月に受注生産、持ち込み車検の形でリリースされた。ちなみに2005年までのSTIバージョンは、iが小文字の「STi」という表記が多い。また、最初のWRX STIには、セダンだけでなく、スポーツワゴンとクーペも存在した。これは、スバルのワゴンの販売比率が高かったからである。
これ以降、WRX STIとEJ20型DOHCターボは、2Lクラス最強の座をかけて、ランサー・エボリューションに積まれた4G63型ターボとともにパワー(トルク)競争に明け暮れるのである。進化したのはエンジンだけではない。94年11月に受注生産の形で登場したWRXタイプRA STIはセンターデフにDCCDを組み込んだ。これは遊星歯車式のセンターデフに電磁クラッチ式のLSDを組み合わせ、センターデフのロック率をフリーからロックまでマニュアル制御できるようにした画期的なシステムである。
WRCチャンピオンに輝いたこともあり、初代のWRX STIは特別限定車を多く発売した。1997年にはクーペボディのWRXタイプR STIバージョンを受注生産し、ブレーキの強化にも力を入れている。そして秋に登場したWRX STIバージョンⅣから、受注生産ではなく正式なカタログモデルに昇格した。
これ以降は、台数限定の特別仕様車がモータースポーツ直系を掲げるWRX STIの正統コンプリートカーになる。280ps規制に縛られない高性能と走りの特別装備が売りで、その代表が2000年以降に登場するS200シリーズだ。
ちなみに98年には、3年連続WRCチャンピオンになったのを記念して、ワイドボディに2212ccのEJ22改型エンジンを積む伝説のWRカーレプリカを仲間に加えている。限定400台の発売だったが、2日間で完売となった。台数限定の特別仕様にスバリストが殺到するのは、当時も今も変わらない。
2000年4月、初代のGC系インプレッサの最後の限定モデルとしてSTIからS201が送り出された。これは初めて自主規制を破る300psを達成した記念すべき作品でもある。スポーティな走りにプレミアム性を加えた特別限定車のS200シリーズは、ヨーロッパの高性能モデルに憧れを持つユーザーの取り込みにも成功し、出すと瞬く間に完売となった。
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