2025年夏に終了した「NSXリフレッシュプラン」。新車の乗り味を復元するという画期的な取り組みだったが、その後継とも言えるサービス、「ホンダヘリテージワークス」が開始された。今までとは何が違うのか。同サービス関係者に伺った。
※本稿は2026年6月のものです
文:ベストカー編集部 鈴村朋己/写真:ホンダ、ベストカー編集部 ほか
初出:『ベストカー』2026年7月26日号
訪れた終わりと急ピッチの進撃
1990年、世界を震撼させた初代ホンダNSX。その輝きを永遠に保つため、1993年に始まったのが「NSXリフレッシュプラン」だ。新車の乗り味を復元する画期的な試みはオーナーを魅了し続け、国内生産分の約7割、5000台近くが今も日本の道を走り続けているという、驚異的かつ奇跡の残存率を誇ってきた。
しかし、30年以上の歳月は冷酷な現実を突きつける。サプライヤーの廃業や金型の消失で「交換するための新品部品がどこにもない」という絶望だ。
「中途半端なことしかできないなら、もうプランをやめさせてほしい」。リフレッシュの根幹が揺らぐなか、現場からは悲痛な叫びが上がり、歴史ある挑戦は2025年夏に惜しまれつつ幕を閉じた。
だが、本田宗一郎の熱いスピリットを継ぐ男たちが、日本の至宝をこのまま見捨てるはずがなかった。「絶対に終わらせてはならない」と、社内が猛烈なスピードで動き出す。
部品がない厳しい状況下で、一体どのようにして文化を紡ぎ、愛車を維持し続ければいいのか。その難問に対するホンダの明確な答えこそが、単なる整備の枠を超えた新組織の設立だった。
前身プランの終了からわずか数カ月後。2025年12月、ホンダは「ホンダヘリテージワークス」の立ち上げを電撃発表。2026年4月、満を持して新サービスが始動した。部品供給の壁を乗り越え自らの遺産を未来へと継承するための、新たな挑戦が幕を明けた。
常識を覆したホンダヘリテージパーツ
新部署のコアメンバーとして集まったのは、今回お話を伺った小池邦夫さん、加藤諒さん、遠藤靖さんの3人。栃木の施工グループやサプライヤーと細かくやり取りするメンバーを合わせても、全体で15人ほどという非常に小さな、しかし純度の高い情熱あふれるチームだった。
若手メンバーとして配属された加藤さんは、目を輝かせながらこう語った。「目の前に広がっていたのは、誰も歩いていない、いわば荒野でした。過去の資料も部品もない。全部ゼロから自分で切り拓かなきゃいけない。中学生の頃、本田宗一郎氏の本を読んで憧れた『ホンダ』の姿だと思いました」。
ホンダヘリテージワークスのひとつがヘリテージパーツ販売。これまでのリフレッシュプランと同じように思えるかもしれないが、その中身は劇的な進化を遂げている。
最大の違いは、部品がないからできないという限界を完全に突破した点だ。これまでは当時と同じ材料・製法による純正復刻部品にこだわり、金型がない場合は断念せよ、というのが社内の常識だった。しかし彼らは、最新の技術を用いた「互換部品」の製造へと一歩踏み込んだ。
たとえば、金型を起こすと天文学的な金額になってしまうアルミ製のオイルポンプ。彼らはこれを「総削り出し」という手法で見事に再現し、当時の圧倒的な性能と質感を蘇らせたのである。
伝統を守るために最新のテクノロジーを駆使する。これこそが、ホンダのヘリテージのあり方なのだ。
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