2026年8月3日に三菱自動車は2026年度第1四半期を発表した。中東情勢の不安定化を含む世界的な全需減少のなか、グローバル販売台数が前年同期比8%減の17万9000台に落ち込んだ一方、営業利益は80%増の101億円となった。「増益」の主因は新車の伸びというよりも、価格改善と為替効果。営業利益率は約1.6%にとどまり、本格回復はこれからだ。そのなかで会社が販売拡大の切り札として決算資料に明記したのが、2026年秋に世界初公開される新型パジェロ。岸浦恵介社長兼COOは会見で「パジェロは三菱自動車の技術、ブランドのすべてを注入したクルマ。しっかり準備して発表したい」と自信をのぞかせた。約7年ぶりの復活は、単なる名車の里帰りではない。三菱の稼ぎ方そのものを変える挑戦の象徴だ。
文:ベストカー編集局長T、画像:三菱自動車
【画像ギャラリー】三菱自動車2026年度1Q決算資料と新型パジェロのティザー画像(16枚)画像ギャラリー「販売8%減、営業益80%増」の中身は価格と為替
まずは数字から見ていこう。三菱自動車が発表した2026年度第1四半期決算は、世界販売台数が前年同期比8%減の17万9000台。それにもかかわらず、営業利益は80%増の101億円、経常利益は102%増の97億円、最終利益は100%増の14億円と、岸浦社長初の1Q決算は「増収増益」に漕ぎ着けた。
| 項目 | 2025年度1Q | 2026年度1Q | 前年同期比 |
| 売上高 | 6103億円 | 6199億円 | +2% |
| 営業利益 | 56億円 | 101億円 | +80% |
| 経常利益 | 48億円 | 97億円 | +102% |
| 最終利益 | 7億円 | 14億円 | +100% |
| 世界小売販売 | 19万4000台 | 17万9000台 | -8% |
売上高は2%増の6199億円にとどまり、販売台数は1万5000台減、それでも営業利益が45億円積み上がった要因を分解すると、売価改善などで約113億円のプラス、為替影響で約128億円のプラスがあった一方、台数・車種構成で約103億円、資材費・輸送費で約65億円のマイナスがあったという。つまり1台あたりの収益改善と為替が、販売減とコスト増を吸収した決算だったと読める。営業利益率は約1.6%。三菱自身も、これで「本格回復」とは考えていないだろう。これはまだ「準備が整った状況」といえる(それでも中東情勢の不安定化真っ只中でこの成績はたいしたもの)。
通期900億円達成のカギは後半戦、欧州も豪州も反転の芽
三菱は2026年度通期予想を据え置いた。売上高3兆2600億円(前期比13%増)、営業利益900億円(同19%増)、世界小売販売85万7000台(同8%増)というプランだ。
| 項目 | 2026年度通期予想 | 前期比 |
| 売上高 | 3兆2600億円 | +13% |
| 営業利益 | 900億円 | +19% |
| 経常利益 | 800億円 | +1% |
| 最終利益 | 250億円 | +150% |
| 世界小売販売 | 85万7000台 | +8% |
第1四半期だけを見ると、売上高の進捗率は約19%、世界販売は約21%まで来ているが、営業利益はまだ約11%。残る3四半期で稼ぐべき営業利益は799億円、四半期平均で約266億円と、第1四半期の2.6倍のペースが必要になる計算だ。季節要因はあるにせよ、既存モデルの自然増だけで届く数字ではなく、新型車の立ち上がりが不可欠というのが会社側の見立てだろう。
地域別に見ると明暗が分かれていることが分かる。日本は登録車の伸びに支えられて販売台数は前年同期比4%増、特にデリカD:5の小売は約1.5倍に伸びた(デリカD:5が!)。北米は台数こそ2%減らしたものの、営業利益は87億円改善の57億円と全社の増益を強く牽引した。一方でASEANは7%減、豪州・ニュージーランドは28%減、欧州は40%減と苦戦が目立つ。
この点について岸浦社長は、まず欧州について「一時的に厳しい数字が続いているが、昨年投入した新型車(グランディスやアウトランダーPHEV)の評判はよく、着実に立て直しが進んでいる」と説明。安価な車種の販売を終了し、高額車を投入してブランド戦略を展開中。三菱の「稼ぐ力」は徐々に積み上がっているように見える。豪州についても「今年は新型パジェロだけでなく、新型BEVの投入も予定している。あわせてご期待いただきたい」と述べ、下期以降の反転に自信を見せた。
三菱が名指しした新型パジェロ、公式に分かっていること
そして今回の決算資料で、三菱が販売拡大の切り札として名指ししたのが新型パジェロだ。日本では2019年に生産終了して以来、約7年ぶりの復活となる。
公式に確認できる情報を整理すると、2026年秋に世界初公開、2026年度中に市場投入、生産はタイ、展開地域は(当面は)日本・タイ・豪州。ベースとなるのはピックアップトラック「トライトン」が採用するラダーフレームだが、単純なSUV化ではなく、パジェロ専用のキャビンと前後サスペンションを与え、オフロード性能と上質な乗り心地の両立を掲げる。3代目・4代目が採用していたビルトインフレーム・モノコック構造から、より明確なラダーフレーム車へと回帰する格好だ。

インパネまわりでは、歴代パジェロの三連メーターを現代的に再解釈した「マルチメーター」を復活させる。高度、方位、外気温、車体の前後・左右傾斜、左右の駆動トルク配分、車両・路面状況などを表示する予定で、単なる懐古装備ではなく悪路走行時の実用情報として位置づけられている。
1982年の初代登場以来、パジェロは4世代・170以上の国と地域で販売され、世界累計約325万台、ダカールラリーでは総合優勝12回(うち7連覇)という実績を持つ。この”看板”を背負って登場する新型について、岸浦社長は会見の質疑応答でこう語っている。
「パジェロは三菱自動車のフラグシップカーです。当社の技術、ブランドのすべてを注入したクルマであり、自信を持って世の中へ送り出します。そのためにも万全に準備し、ローンチを成功させて販売全体の勢いを加速させてゆきたいと思います」
エンジンや変速機、駆動方式の詳細は現時点で未公表。現行トライトン(日本仕様)は2.4L直4クリーンディーゼルターボ、最高出力150kW、最大トルク470Nm、堅牢で耐久性に優れたラダーフレームと高い路面追従性を発揮するサスペンションを採用し、シャシー共用の観点からは新型パジェロもこの系統を継承する可能性が高いと見られる。
パジェロは懐古商品ではない、三菱の経営を変える「一台」
ここまで見てきた材料を整理すると、新型パジェロの役割は「名車の復活」という情緒的な話にとどまらないことが分かる。
三菱は先日発表された中長期計画で、ブランド価値を価格に充分反映できていないこと、多品種少量生産によるコスト高、低収益車種への依存、中古車・金融・用品・アフターサービスの収益化不足を自社の弱点として挙げている。2025年度の世界販売79万7000台に対し、2029年度目標は90万台程度と台数の伸びは約13%にとどまる一方、営業利益は755億円から1600億円へと倍増させる計画だ。
つまり三菱が目指しているのは「台数を積む経営」ではなく「1台あたりの利益を厚くする経営」であり、新型パジェロはその象徴となる高価格・高付加価値商品として位置づけられている。
会社側は新型パジェロの投入を機に、高価格オフロード車に対応した店舗づくりやフラッグシップ店舗の展開、スタッフ教育、ブランドマスター制度、金融・中古車・用品との連携強化も進める方針だ。
パジェロで来店した客が、トライトンやアウトランダーPHEV、デリカD:5に興味を持つ、いわゆるハロー効果への期待も大きい。さらに中長期計画では、デリカとパジェロをブランドモデル群として育成し、ASEANや中東、中南米へオフロード商品を展開する構想も示されており、今回のフルサイズ級パジェロは「パジェロシリーズ」の出発点になる可能性がある。
もっとも楽観はできない。新型パジェロはタイ生産のため、為替の影響を強く受ける。第1四半期はタイバーツ安が約80億円の減益要因となっており、通期でも約310億円のマイナス影響を見込む。高価格車であるほど、タイでの製造原価や物流費、各市場の価格設定が採算を左右する。現行トライトンGSR(日本仕様)は552万円からで、ランドクルーザー250など競合も600万円前後からのレンジにひしめく。専用キャビンや上質な内装を考えれば新型パジェロが割高になるのは自然だが、価格を上げすぎれば旧来ファンが離れ、抑えすぎれば三菱が目指す利益率改善につながらない。「高くても納得できる商品価値」を作れるかが最大の焦点になるだろう。
そうなると、ライバルであるトヨタ・ランドクルーザーとの単純な比較にとどまらない、伝家の宝刀「S-AWC」によるオンロード/オフロードでの走行性能や快適性、マルチメーターによる独自の運転体験、いずれは三菱らしい電動化技術といった差別化も問われる。
参考までに、2代目パジェロの全盛期だった1990年代前半、国内は月間7000~8000台を売っていた。これは三菱の2026年度国内販売計画(年間14万台、月平均約1万1700台)の6~7割に相当する規模で、当時のパジェロがいかに巨大な商品だったかが分かる。


















コメント
コメントの使い方