「エンジン研究と開発はこれからの時代、ますます重要」と語る早稲田大学理工学術院の草鹿仁教授。詳しくは下記、本編インタビューをご覧いただくとして、本編取材を終えたあと、草鹿仁教授の案内で、早稲田大学・草鹿研究室を見学した。研究室の9つのセクションでは、それぞれの研究テーマに取り組む学生たち10名が「いま、どんな研究をしているか」の問いに答えてくれた。エンジン熱効率50%超、E20やHVOといった次世代燃料の利用、触媒と熱マネジメント研究の最前線を支えているのは、こうした一人ひとりの地道な研究の積み重ねだ。本編は特別編として、草鹿研究室の9つの現場と、最後に草鹿教授が語った「まとめ」をお届けする。全3回の内の第3回。
文:ベストカー編集局長T/写真:森山良雄、ベストカー編集部
【画像ギャラリー】エンジンの未来をつくる9つの実験室「草鹿研究室」学生研究レポート【特別編】(10枚)画像ギャラリー1. 冷間始動時の排出ガスを、エタノール混合燃料でどこまでクリーンにできるか
田村賢治さん(大学院創造理工学研究科総合機械工学専攻 修士2年)
最初に案内してもらったのは、冷間始動時の排出ガスを研究する田村さんの実験室だ。たとえば日常でクルマを使う場合、エンジンが動き出した直後、そして気温が低いときほど、排ガスをきれいにする触媒が充分に温まっておらず、性能が発揮できずに浄化が難しい。しかも自動車の排出ガスの多くは、この冷間始動の直後に集中して出る。だからこそ、そもそも燃焼の段階でガスをクリーンにしておく必要がある。
田村さんが注目するのが、ガソリンにエタノールを混ぜた燃料だ。直噴エンジンでは冷間時、燃料が充分に蒸発しきれず未燃のまま排出されてしまう課題がある。エタノールを混ぜると蒸発しやすくなる一方、蒸発時に奪う熱量が大きくなるため、かえって蒸発特性が悪化する面もある。このプラスとマイナスのどちらが優勢に働くのかを、基礎実験とエンジン実機の両輪で解明し、エタノール混合燃料に最適な燃焼制御――噴射量や噴射タイミング――を突き止めることが研究のゴールだ。
たとえば世界で1.5億台ともいわれる保有台数を抱えるトヨタのようなメーカーにとって、既存のガソリン車をエタノール20%(「E20」)までの燃料でカーボンニュートラルに近づけられるかどうかは切実なテーマだ。田村さんの研究が進めば、既存のガソリン車に積まれたエンジンと触媒を改良(改造)することで、次世代燃料に対応できるかもしれない。古いクルマに乗り続けることができるかもしれない。古いクルマに乗り続ける人を置き去りにしないための現実解が、このひとつひとつのデータの中に眠っている。
2. 大型トラック用ディーゼルエンジンで、バイオ燃料HVOの実力を確かめる
甲斐中朝日さん(創造理工学部総合機械工学科 4年)
次に見せてもらったのは、大型トラックに使われる重量車用エンジンを1気筒だけ抽出した研究用単気筒エンジンで、次世代バイオ燃料「HVO」の影響を調べる甲斐中さんの実験だ。重量車はインフラや積載量の制約から電動化が難しく、既存の内燃機関を生かした脱炭素化が現実的とされる。そこで注目されるのがHVO。植物油や廃食油からつくられる完全にカーボンニュートラルな軽油代替燃料で、市販のディーゼルエンジンにそのまま使っても問題なく作動することが、この実験ですでに確認できているという。
エンジン本体の脇には圧縮空気を送り込むコンプレッサーが接続されており、実際の過給環境に近い条件をつくったうえで、燃焼と排出ガスの変化を確かめられるようになっている。つまり燃料を置き換えるだけで、既存の車両のままカーボンニュートラルを達成できる可能性があるということだ。現在の研究ではHVOの混合濃度を段階的に引き上げており、NOx(窒素酸化物)の排出性能はほぼ通常のディーゼル燃料と互角。一方でPM(粒子状物質)がやや増加する傾向があり、これをいかに抑えながらHVO濃度を高めていくかが次の課題になっている。電動化しにくい現場にこそ、バイオ燃料は最も現実的な選択肢になるのかもしれない。












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