時代とともにデザイントレンドは大きく変わってきている。かつてのドアミラー解禁などで多くのクルマのデザインが変わった事実もある。時代と共に変わっていくフロントフェイスのトレンドを追っていこう。
文:岡本幸一郎/写真:TOYOTA、Adobe Stock(ONYXprj@Adobe Stock)
■常に変わっていくトレンド
時代とともにデザインのトレンドは変わるものだが、クルマの場合は法的な要件やアセスメントが少なからず関わっている。たとえばかつてフェンダーミラーが義務づけられていた時代(1983年にドアミラー解禁)には、
ミラーの装着を考慮してボンネットやフェンダーを高くし、ひいてはフロントフェイスが角ばったデザインのクルマが多かった。解禁以降のドアミラーが標準のクルマに何らかの理由でフェンダーミラーが装着されていて、
妙に脚部が長くて驚いたことのある人もいるだろうが、解禁以前は脚部を長くせずにすむようにデザインされていたわけだ。
そもそも80年代はデザインのトレンドもエッジを効かせたシャープなイメージが流行ったこともあり角ばった雰囲気のクルマが多かったが、
逆に90年代以降は丸みをおびたデザインがトレンドとなった。そのほうが視覚的に新しさがあるし空力的にも有利であることには違いなく、セダンでもノーズに微妙に傾斜をつけたクルマが多く見られるようになった。
ところがここ数年、フロントが直立した顔の四角いクルマが増えてきた。たとえばセダンではクラウンが顕著だ。
2003年登場の12代目ゼロクラウンではそれまでよりもフロントが一気にスラントし、つづく2008年登場の13代目ではさらにそれが強まり、横から見ると全体がワンモーションを描くシルエットにされた。
ところが2012年登場の14代目のリボーンクランではフロントグリルが立ち気味にされ、2018年登場の現行15代目にいたってはさらに立って垂直に近い角度になった。
デザイン的にも空力的にも時代と逆行している気もしなくないわけだが、その理由として、開発関係者から聞いた話や調べたネタをもとに考え合わせると、「歩行者保護」が大きく影響していると考えられる。
■“歩行者保護”でどう変わったのか
まず国交省は2005年、世界に先駆けて自動車アセスメントの安全評価に「歩行者頭部保護性能試験」を導入した。
これははねられた歩行者の頭部が自動車のボンネットおよびフロントウインドウ等に衝突した際に受ける衝撃を測定して評価するというもの。
これへの対策として、ボンネットとエンジンや車体の構造部材など硬い部品とのクリアランスを確保するため、ボンネットを高くするなどデザインを工夫したり、衝撃を感知すると自動的にポップアップする機構を採用するようになったのはご存知のとおりだ。
さらに2013年、同評価基準が改正され、上記の頭部保護性能試験の強化とともに、新たに「歩行者脚部保護性能試験」が加わった。
さらに、バンパー自体にも衝撃を吸収する素材や構造を用いられるようになったほか、
衝突した歩行者が車両の下側に巻き込まれることなく跳ね上がってボンネットに頭部が当たるよう、バンパー下部が張り出した形状とされるようになった。
ノーズ前端が立ち気味にされるようになったのも、そのほうが頭部がボンネットのちょうどよい位置に当たるようにしやすいからだと思われる。
<※本当は断言したいのですが、確証がえられておりません…>。
これらの事情によりフロントフェイスが平面的なクルマが増えたわけだ。そうなるとデメリットとしてまっさきに思い浮かぶのが空力だ。
むろんスラントしているほうが空力面ではよいことには違いなさそうだが、目に見える部分もさることながら、実はグリルに入ってからのほうが問題で、エンジンルームの中というのは想像以上に空気抵抗が大きい。
そこでグリルシャッターを設けて、水温が適正に保たれていて開ける必要のないときにはシャッターを閉じて燃費とCd値の改善を図ったクルマがちらほら見受けられるようになった。
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