従業員削減、工場閉鎖、部品種類の大幅整理など、大規模リストラで生き残りを図る日産。一方で、クルマの開発手法も大胆な改革を進め、競争力を高めようとしている。クルマづくりにおいて、日産は何を変えようとしているのか?
※本稿は2026年9月のものです
文:鈴木直也/写真:日産
初出:『ベストカー』2026年10月10日号
常識を変えなければ中国勢に勝てない
「最近日産が元気だよね!」そんな声が増えている。
一般ユーザーにとっては、キックスやエルグランドなどニューモデルの登場。経済アナリストにとっては、2026年第1四半期に2年ぶりの黒字転換を果たすなど、決算内容の改善。そして、我々自動車メディアにとっては、日産内部で今どんな取り組みが行われているのか、かなりディープな情報発信が増えていること。
実は、これって自動車ジャーナリストだけではなく一般ユーザーにとっても凄くいいこと。積極的にメディアに発信することで、ユーザーとの距離を縮め、将来の日産ニューモデルに対する期待を盛り上げようと努力しているのだ。
というわけで、2026年7月、8月の2カ月連続で行われた日産のメディアレクチャーの模様をざっくり紹介しよう。
まずは、7月30日に行われた「開発期間短縮への取り組み」について。プレゼンターは第一製品開発本部 山口一之さんだ。
山口さんにとって衝撃的だったのは、コロナ明け2023年の上海モーターショーで、中国メーカーの超速進歩を目の当たりにしたコトだったという。
彼らのスピードとまともに戦うのは、各種法規制や労働慣行などもあって無理。しかし、少なくともこれまでの常識をひっくり返さないと勝負にならない。そんな危機感からこの取り組みは始まった。
クルマの開発には、デザインや構想を設計に落とし込む「デジタルフェーズ」と、それを試作から生産へ移行させる「フィジカルフェーズ」がある。中国勢が強いのはデジタルフェーズで、場合によっては日欧メーカーの2倍速で開発が進む。
当然、まず手をつけるとすればココ。何を売り物にするのか商品特徴をハッキリさせ、デザイン決定プロセスの前倒しとシンプル化を行い、プロジェクト責任者を明確化する。さらに、AI/DXの活用で実験などのフィジカルフェーズも効率化し、開発期間を20カ月(!)短縮する成果を絞り出したのだそうだ。
ぶっちゃけた表現をすれば、「会議ばっかりやってないでとっとと決めろ」。巷間語られてきた日産の問題点、やっぱそうだったのねと納得してしまいました(個人の感想です)。
その過程で、ゴーン体制から引き継いだ開発組織、すなわち収益性に責任を負うPD(プログラムダイレクター)、商品性を所管するCPS(チーフプロダクトスペシャリスト)、ハードとしての“クルマ”開発を担うCVE(チーフビークルエンジニア)という3本柱体制。
これは、民主的ではあったけれども意思決定が遅いと総括。PDが実質的にCPSを吸収するかたちで簡略化された。
また、瑣末なことだが、組織改革の過程で職場環境も、いわゆる「大部屋方式」へ変わり、開発チームの意思疎通が改善したという。
複数のモデルをファミリーで開発
続いて8月21日は、「ファミリー企画に関するメディアレクチャー」が実施された。こちらは商品事業企画部 副本部長 佐々木英王さんによるプレゼンだ。
今度のテーマは「開発期間短縮」を受けて、基幹プラットフォームから派生する車種バリエーションを効率よくスピーディに開発するための取り組み。共通のアーキテクチャーをベースに開発される複数車種のグループを、日産は“ファミリー”と呼んでいる。
これも、基本的には昔からある共通プラットフォーム戦略なのだが、問題点として意識されたのは「プラットフォーム共通化のメリットが大して得られていない」という現実だ。
そこをマネジメントするため、CFS(チーフ・ファミリー・ストラテジスト) という責任者を任命。ファミリー単位で前提条件を決め、あらかじめ複数車種をひとつの「ファミリー」として開発する体制を作りましょう、というハナシだ。
具体的には、フレーム、ミドル、コンパクトといったジャンルをファミリー化し、共通ソフトウェア基盤やナビ、ADASはプラットフォームを横断して共通化。エンジン、パワートレーンも共通の技術アーキテクチャを元に開発する。
ここでも重要なのは、早期にファミリー単位で一括意思決定をし実行するスピード感。これにより、開発期間約40%短縮、部品種類70%減を目標としている。
個人的に注目しているのは、個別の車種を開発しているチームが、いかにエゴを抑えてファミリーでの最適化を重視するかという問題。
すぐ思いつくのは「ファミリーを大事にするとコストが下がりますよ」といったインセンティブだが、こういう仕組みがうまく機能しないと、なかなか“全体最適”という目標にみんなのベクトルが揃わない。
ともあれ、こういう話を聞くと、今後出てくる日産ニューモデルに期待が膨らむのはまぎれもない事実。やはり、メーカー→メディア→ユーザーへと伝わるワクワク感のリレー、コレがとっても大事ですよね。
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