これまで、さまざまな媒体でレクサスはメルセデス・BMWと比較されてきた。クルマの基本性能は、ドイツ勢に一日の長があり、レクサスはまだまだメルセデスやBMWには追い付けていないというのが、大勢の評価だ。
本当に、レクサスはドイツプレミアムブランドに追い付けていないのだろうか。元レクサスセールスコンサルタントの筆者が、この評価を再検証していく。
文/佐々木亘 写真/編集部、Daimler AG、LEXUS
【画像ギャラリー】レクサスはドイツ勢に追いついていないのか!? レクサスとベンツ&BMWの違いとは!?
■レクサスとベンツ・BMW 歴史の長さとそれゆえの「違い」
1989年に北米で誕生したレクサスは、現在32年の歴史をもつ。日本での開業は2005年、国内だけで考えれば16年とかなり短い。対するメルセデスやBMWは100年近い歴史を刻んでいる。
長い年月をかけて、ブランドが構築され、その価値は磨かれていく。スリーポインテッドスターやキドニーグリルが、高級感や喜びを醸し出すのも、歴史が作り上げた側面が強い。
また、メルセデスには「Das Beste oder nichts(最善か無か)」、BMWには「Freude am Fahren(駆け抜ける歓び)」という明確なブランドスローガンがある。こうした首尾一貫したクルマ作りへの姿勢は、年月を経て、高く評価される。
歴史という点で、レクサスが両社に追いつき、追い越すことは物理的に不可能だ。しかし歴史を重ねることによるデメリットもある。質実剛健なメルセデス・BMWには、クルマを作るうえで変えられない、解けない鎖が絡んでいるように見える。
対するレクサスは違う。新しいブランドだからこそできることがある。初代LSは静粛性という新しい価値を創出した。北米では、販売店サービスの既成概念を壊し、良質で丁寧な対応に終始する。これは、メルセデスやBMWでは気づけなかった。多様性のあるレクサスだからできたことである。
■一貫した理念や価値観の確立はレクサスの急務
レクサスでは新型車が発表されると、必ず集合研修を受ける。営業はもちろん、サービススタッフなどを含め全員が対象だ。研修ではレクサスが、メルセデスやBMWと比べて足りないと自覚している点も語られる。
その話は、足回りのしなやかさや、高速走行での操安性といったところから、インテリアの細部に至るまで様々だ。新型車では、ドイツ車の長所に対して、レクサスがどう工夫し、クルマを作ったのかが高い熱量で伝えられる。
しかし、メーカーが語るような工夫を感じ取れず、比較試乗したライバル車の方が、やはり優れているのではないかと感じることもあった。
さらに、レクサスの営業マンは、輸入車に対する研修を、若い年次で必ず受けなければならない。
輸入車ディーラー営業マンの、粘り腰や自社オーナーへの訴求の強さ、買い替えへつなげるプロセスなどを教えられる。そして、メルセデスやBMWの営業はこんなに頑張っているのだから、それに続けと発破をかけられる。
実際のレクサスの販売現場で、輸入車オーナーが来店した際、乗ってきたクルマへの知識や、ブランドへの理解は必要である。しかしこれは、顧客との話を円滑に進めるためのタネだ。無いよりはいいが、これがあれば必ずレクサスが売れるわけではない。
メルセデスやBMWが販売現場でやっているのは、丁寧な自己分析と情報発信だ。しっかりとした販売店の情報発信は、メーカーがブランドの魅力を、ブレることなく発信しているからできる。この点では、レクサスの販売現場から行われる発信は、まだまだ弱い。
これは、一貫した理念や価値観が、まだレクサスで固まっていないことから生じているように思う。販売現場の力が足りない訳ではない。
2013年には「AMAZING IN MOTION」、2017年には「EXPERIENCE AMAZING」とブランドスローガンが変わった。ブランドロゴも初期のゴールドからプラチナムになっている。ユーザーや販売店が、レクサスの本質を捉えきれない現状だ。
メーカーは早急に「レクサス」について、方向性を固める必要があるだろう。
レクサススタッフの販売力は、メルセデスやBMWには負けていないと思う。レクサス販売店は、トヨタ販売店の母体があり運営されることが多い。つまり「販売のトヨタ」の精鋭が、レクサスに集まっているわけだ。より親身に丁寧に対応するレクサスの方が、ライバルより優れている点も多い。
日本式の日本に合った販売を体現できるのは、レクサスだけにできることだ。ここはメルセデスやBMWに似せるのではなく、プライドをもって独自の路線を突き進んで欲しい。日本人がAMAGING(驚き)と感じられる、レクサスの販売現場を作るべきだろう。
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