新型ヴェゼルのデザインの評価は意見が分かれている。SNSなどではCX-5のフロント、ハリアーのリアなんて意見もあった。
たしかにそうも見えるデザインなのだが、そんなことはきっとホンダのデザイナーもわかってのこと。
ここにはなにかしら狙いがあるはず。ベストカーでかつて「デザイン水かけ論」を担当していた清水草一氏にデザイン論評をもらった。
文/清水草一、写真/HONDA
【画像ギャラリー】デザインの要点は別にある!! シンプル&クリーンに立ち戻った新型ヴェゼルを見る
■ネット騒然!! 新型ヴェゼルはアレに似てる!?
新型ヴェゼルの画像を初めて見たとき、「このデザインはイイ!」と思った。ショルダーラインはクリーンに一直線に伸び、全体的にシンプルで上質。フロントグリルがボディ同色なのがとても新鮮だ。
ヴェゼルはコンパクトクロスオーバーSUVだが、新型は、車格がかなり上に見える。取り立てて個性的ではないが、それは控えめで上品という意味でもある。誰にでも好かれて誰にも嫌われない、ソツなくキラリと光るデザインだ。
が、新型ヴェゼルのデザインが、ネット上でかなりの批判を受けているという。曰く、「フロントはCX-5、リアがハリアーに似ている」「CXハリアーだ」と。
言われて見れば、確かにフロントの六角形グリルと切れ長のヘッドライトという基本造形はCX-5に似ているし、左右につながったテールランプ形状もハリアーに近い。ただそれはディテールの話で、フォルムはまるで異なる。だから私は、一見してその2台を連想することはまったくなかった。
■表情に惑わされるな! 新型ヴェゼルのオリジナリティ
新型ヴェゼルをサイドから見ると、前述のように一直線のショルダーラインがまず目に付く。それはヘッドライトの高さで水平に貫かれていて、かなり高い位置に重心があるようなイメージだ。サーカスの綱渡り的とでも申しましょうか? それが、このクルマを、サイズ以上に大きく立派に見せている。
重心が低いデザインは、安定感が高く速そうに見える。前傾姿勢も同様だ。これは自動車デザインにとって、基本的に「善」である。
が、重心が高いデザインは、うまく作ればフォーマル感を生む。水平基調も同様。さらに後傾となると、かつてのジャガーXJのような荘重なイメージになる。これらは高級車のデザインである。
新型ヴェゼルは、重心が高い水平基調のフォルムだ。これが、フォーマルでクリーンな優等生的イメージを抱かせる。
対するCX-5のショルダーラインは、軽く前傾したウェッジシェイプ系。がっしり太いリヤピラーも、後ろ寄りの重心を感じさせ、全体として後ろ脚で蹴る力強いイメージになっている。つまり新型ヴェゼルとは大きく違う。
ハリアーのウエストラインは、CX-5同様やや前傾だが、全体的にふくよかな曲線を描く有機的なフォルムだ。つまりこの3台、フォルムはまったく違うのだ。
一般ユーザーは、フォルムよりもフロントフェイスやテールのディテールが作り出す表情にまず目が行き、そこに類似点があれば「似てる」「マネだ」と感じやすい。
その観点からすると、新型ヴェゼルの顔はCX-5と共通点があり、テールもハリアーに近いが、それらはどちらも現代のSUVの「定番」とも言える造形だ。昔で言えば「横桟グリルに丸目2灯」「角型横長テールランプ」みたいなものに近く、それを「似てる」「パクリ」と言うのは酷ではないか。
むしろ新型ヴェゼルのデザインは、ホンダeや現行型フィットに代表される、ホンダの「シンプル&クリーン回帰デザイン」の一環だろう。
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