現在に日本車メーカーで高級車ブランドを展開しているのはトヨタの「レクサス」のみとなっている。しかし、海外に目を向けると日産は「インフィニティ」、ホンダは「アキュラ」を展開している。
日産はスカイラインにインフィニティのバッヂを付けていたことがあり、日本にも「インフィニティを導入する布石か!?」と言われたこともあったが、その後は通常の日産マークに戻すなど、導入される気配はない。
なぜトヨタだけがレクサスを展開し、日産とホンダは導入しないのか? 自動車の需要が下がっている日本では売れないと踏んでいるのか? ブランドを日本に根付かせるためにコストをかけるのが無駄だと判断しているのか? ほかの理由があるのか? 国内メーカーの高級車ブランド事情について考察していきたい。
文/渡辺陽一郎
写真/LEXUS、NISSAN、編集部
【画像ギャラリー】日本では手に入らない、国産メーカーの高級車たち
■昔は各ブランドに伴うイメージが、国内と海外で異なった
日本の自動車メーカーは、海外では上級ブランドを展開している。トヨタはレクサス、日産はインフィニティ、ホンダはアキュラだ。それなのに上級ブランドを国内でも展開しているのはレクサスのみ。インフィニティとアキュラは海外専門になる。この背景には複数の理由がある。
まず日本の自動車メーカーが海外で上級ブランドを立ち上げた理由を考えたい。海外と日本国内では、日本車メーカーのブランドイメージが違うからだ。
日本におけるトヨタのブランドイメージは、1955年に発売された上級セダンの『クラウン』でスタートした。このあと、1957年にファミリーセダンの『コロナ』、1961年にコンパクトな『パブリカ』という具合に車種をそろえた。
日産は戦前から乗用車の『ダットサン』で高い人気を得ており、1959年に『ブルーバード』に継承された。1960年には上級セダンの『セドリック』を発売している。
このように両社とも、日本国内では中級、あるいは上級車種から普及を開始した。コロナとブルーバードは幸せな家庭の象徴とされ、クラウンやセドリックは出世して乗りたいクルマになった。どちらも憧れの商品だ。
ところが海外の日本車は、普及の出発点がまったく違う。小型車の『カローラ』や『サニー』から注目された。きっかけは1973年に発生したオイルショックだ。ガソリン価格が高騰して、日本車の低燃費と低価格、故障の少ない耐久性が評価され、買い物などに使う日常的な生活ツールとして好調に売れた。日産『初代フェアレディZ』のように、1970年(国内発売は1969年)から北米で注目されたスポーツカーもあるが、これは例外に属する。
そして海外で日本車が普及すると、上級車市場への進出も考えたが、日本車メーカーのイメージは低燃費で低価格、耐久性の優れた実用車だ。そこでブランドイメージを刷新する目的で、上級ブランドを立ち上げた。
北米ではGMならシボレー/オールズモビル/ビュイック/キャデラックという具合に複数のブランドをそろえて階級分けを実施しており、レクサス、インフィニティ、アキュラも、いわばキャデラックのような上級ブランドに続く存在になった。
つまり日本車メーカーが上級ブランドを用意したのは、小型車から普及を開始した海外の事情に基づく。中級あるいは上級車種から出発した国内市場では不要だった。そのために海外でレクサス、インフィニティ、アキュラがスタートした後も、日本には長い間用意されなかった。
コメント
コメントの使い方