高級車ブランドはレクサスだけ!なぜ日産とホンダは海外展開だけなのか??

■庶民に親しまれるクルマと高級車のジレンマ

 しかしレクサスだけは、1989年の北米展開から16年を経過した2005年に国内で開業している。そこにはトヨタならではの特殊な事情があった。

 日本車の売れ行きは、1990年をピークに売れ行きが下降を開始した。トヨタの国内における登録台数は、1990年が250万台、2000年は176万台だ。バブル経済の終了による景気の悪化で、わずか10年間に約30%の需要を失った。

 国内市場全体では、1990年が778万台、2000年は596万台だから、減少したものの23%だ。トヨタの落ち込み方は、国内の平均水準を超えるものであった。

 そのいっぽうで、プレミアムブランドとされる輸入車の売れ行きは伸びている。メルセデスベンツは1990年が3万8985台、2000年は5万1613台だから10年間で32%増加した。

1950年代以降、クルマは生活必需品として日本国民に広く普及していく。トヨタもそれに合わせて庶民的なクルマをどんどん開発したから、1990年代後半から欧州メーカーが打って出た高級車戦略に対しては、新規にブランドを立ち上げる必要があった
1950年代以降、クルマは生活必需品として日本国民に広く普及していく。トヨタもそれに合わせて庶民的なクルマをどんどん開発したから、1990年代後半から欧州メーカーが打って出た高級車戦略に対しては、新規にブランドを立ち上げる必要があった

 メルセデスベンツ自体の登録台数自体は、2000年でも5万台を少し超える程度だ。トヨタの176万台に比べると圧倒的に少ないが、トヨタは将来の動向を心配した。メルセデスベンツ、BMW、アウディといった欧州プレミアムブランドの日本進出に対抗すべく、自社でも用意する必要があると判断した。

 このように海外と日本国内では、レクサスの目的がまったく違う。海外では上級車市場に進出して攻めることが目的だったが、日本では増加する欧州プレミアムブランドを食い止めて、トヨタ車の需要を守ることに重点を置いた。目的が違うから、国内の導入時期も北米の16年後になったわけだ。

■軽自動車市場に力を入れるかどうかの判断が、結果として高級ブランド導入の別れ道となった

 軽自動車の売れ行きも関係している。1990年における軽自動車の届け出台数は180万台だが、2000年は187万台に増えた。伸び率は小さいが、市場全体が前述の通り縮小したから、軽自動車の国内新車市場に占める比率は1990年が23%、2000年は31%に達している。

 軽自動車の規格は、1998年に現在と同じ内容に刷新され、ほぼ同時期に16車種の新型軽自動車が発売された。この時をきっかけに軽自動車は売れ行きを伸ばし、2000年のシェアは30%を超えた。

 そうなると軽自動車を用意しないトヨタでは(2000年当時はOEM車も扱っていなかった)、低価格の小型車は、軽自動車に需要を奪われる可能性がある。売れ筋価格帯を上側に拡大する必要が生じたから、その意味でも海外のプレミアムブランドに対抗できるレクサスの国内導入が必要だった。

 一方、インフィニティやアキュラを国内に導入しなかったのは、日産やホンダにトヨタのような事情が存在しなかったからだ。

国内では『インフィニティQ50』より、日産『スカイライン』のほうがブランド単体の価値が高い。というような判断の違いが、国産各メーカーのブランド戦略の違いとなって現れているようだ
国内では『インフィニティQ50』より、日産『スカイライン』のほうがブランド単体の価値が高い。というような判断の違いが、国産各メーカーのブランド戦略の違いとなって現れているようだ

 日産の国内販売台数は、1990年が140万台で2000年は73万台だ。トヨタの250万台・176万台に比べると、1990年は56%だが、2000年は41%まで下がっていた。インフィニティの導入以前に、国内、海外ともに業績の悪化によって根本的な立て直しを図られ、ルノーと業務提携を結んだ。

 この後に日産の業績は上向き、改めてインフィニティの国内導入を検討したが、レクサスの状況も考慮して結局は見送ったという。プレミアムブランドを用意するには、商品開発と販売面で、多額のコストを要するからだ。

 しかも日産の場合、海外でインフィニティとして売られる車両を日本国内では『スカイライン』や『フーガ』として扱っている。スカイラインやフーガをインフィニティブランドに切り替えた場合、むしろ売れ行きが下がる心配もあった。

 実際、レクサスも売れ行きを下げていた。『LS』の国内版だった『セルシオ』は、トヨタ店とトヨペット店が扱い、2000年以降のモデル末期でも1カ月に800~1000台を登録したが、LSに変更してレクサス店が扱うと500~600台に下がった。2020年は約150台になる。

 売れ行きを下げた一番の理由は店舗数だ。レクサスの開業当時、国内のトヨタ店とトヨペット店を合計すると約2000店舗を構えていた。対するレクサスは170店舗だから、LSの販売ネットワークはセルシオの10%以下になる。欧州のプレミアムブランドに対抗できても、肝心の日本車として、売れ行きを下げてしまった。

 特にレクサスの店舗展開は、欧州のプレミアムブランドと同様に、都市部が中心だ。従って1県に1店舗しかない地域も残る。レクサスでは値引きをほとんど行わないから、1台の販売で得られる粗利は多いが、台数は伸び悩む。そのために2020年のレクサスの登録台数も4万9059台で、メルセデスベンツの5万7041台を下まわった。

 2020年にトヨタの小型/普通車市場におけるシェアは50%を超えている。そのトヨタでも、レクサスを成功させたとはいい難い状況だから、日産やホンダは手を付けようとしない。

 結局のところ、レクサス、インフィニティ、アキュラは、すべて海外戦略ブランドだ。日本では各社とも1990年代までにブランドイメージを固めており、もともと日本国内でプレミアムブランドは不要であった。トヨタだけは、欧州車に対抗する手段としてレクサスを国内導入したものの、多くのユーザーと販売店にとって、セルシオを扱っていた時代のほうが幸せで売れ行きも伸びていた。

 クルマには車検や点検、リコールなどもあるから販売店が大切だ。トヨタの「町いちばんの会社を目指そう」「町いちばんのお店づくりをしよう」という考え方は、クルマの販売店として最も大切な取り組み方になる。

 それが一番できていないのがレクサスだ。1県に1店舗しかないのでは、レクサスが欲しくても買えない顧客が増えてしまう。地域による不公平が生じて、「町いちばんの会社」「町いちばんのお店」にはなり得ない。

 既存の店舗にレクサスのコーナーを設けるなど柔軟に対応して、トヨタらしい不公平のない「町いちばんと誇れる日本のレクサス」に育てるべきだ。仮にインフィニティやアキュラが日本で開業するとしても、そのあとになる。

【画像ギャラリー】日本では手に入らない、国産メーカーの高級車たち

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