先代メルセデスSクラスに、S300hというグレードがあったのを覚えているだろうか。一部カーマニアから「Sクラスの決定版!」と言われたグレードだ。
日本での販売期間は、2015年から17年まで。あんなにすばらしいクルマだったのに、早々に廃止されてしまったのは、「あまり売れなかったから」らしい。
Sクラスの新車をお買いになるお客様は、一番下のグレードを選ぶことは少ないし、ディーゼルに対しても「ガラガラうるさい」と偏見が強いとか。なるほど~。カーマニア的には一番刺さったんだけどなぁ。
文/清水草一、写真/Daimler
【画像ギャラリー】ディーゼルはうるさい? それを上回る魅力のベンツSクラス「S300h」
■2.2リッターのクリーンディーゼルターボ
このS300h、搭載エンジンは3リッター……ではなく、2.2リッターのクリーンディーゼルターボだ。そこに27馬力のモーターを組み合わせたマイルドハイブリッドで、300という数字は合計の出力レベルを、末尾のhはハイブリッドを表していた。
あの巨大なSクラスに、たった2.2リッターの排気量で足りるのか? 2.2リッターなんてCX-5と同じじゃないか! と思いきや、これが実にちょうどよかった。もちろんそんなにパワフルではなかったけれど、非力に感じるシーンは皆無。
ディーゼルのガラガラ音や振動――と言っても、さすが新世代のクリーンディーゼル。ボンネットを開けてもそんなにうるさくなかったですが、そういったネガはSクラスの分厚い防音装備がほぼすべて吸収。
その上ハイブリッドシステムのおかげで、アイドリングストップからの復帰時の「がるん!」という唸りもなく、ほんのふた転がりほどモーターで発進しつつ、ほぼ無音でエンジン始動。そのままどこまでもしずしずと、超絶快適に走って行くクルマだった。
■高速巡行ではなかなかの燃費性能
JC08モード燃費は20.7km/L。高速巡行では、この数字を上回ることも可能だった。燃料タンク容量は70L。つまりワンタンクで鹿児島から東京まで走り切ることもできる。日本で放映されたテレビCMでは、盛んにそのことをアピールしていた。
現在私が所有する先代BMW320dも、高速巡行なら20km/L以上走るけれど、燃料タンク容量は57L。ワンタンク1000kmが精一杯だ。でっかい燃料タンクって、雄大でスバラシイ!
パワーはロマンだが、航続距離もまたロマン。Sクラスのウルトラ快適な空間に身を沈めつつ、どこまでも走って行けるこのクルマは、フェラーリ的な単距離発散型のスポーツカーとは真逆の、真に持久的な快楽をもたらしてくれそうに思えた。
もちろん見た目はSクラスそのものだから、押し出しは戦艦ビスマルク。プリウス並みの燃料代で、無敵艦隊気分が味わえる。
「いつかはS300hを!」
初めて試乗した時から、ひそかにそんな思いを抱いたものです。
「いつかは」とは、「値段がこなれたら」ということ。個人的には、300万円を切った時が運命の日だと思っていた。
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