長い下り坂で「速度注意、エンジンブレーキ使用」という注意書きを目にすることがある。エンジンブレーキとは、AT車ならばセカンドレンジ、MT車ならば低速ギアに入れ、アクセルオフにすること。
これによって、フットブレーキを使用することなく減速することが目的なのだが、なかには、「下り坂ではNレンジ(ニュートラル)にする」という人もいる。その理由は「Nレンジで空走状態にすることで燃費が稼げるから」だそうだ。
しかし、下り坂でのNレンジは、燃費に貢献しないばかりか、減速できず危険なので、やっている人は今すぐやめてほしい。なぜNレンジで下り坂を走ると危険なのか、燃費に貢献しない仕組みについても、解説していく。
文:吉川賢一
アイキャッチ写真:AdobeStock_Patcharanan
写真:写真AC、TOYOTA、NISSAN、HONDA、MAZDA、DAIHATSU、VW
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「下り坂をNレンジで走行すると燃費にいい」は、むしろ逆
平坦な道を走行中、アクセルオフにすると減速度を感じると思うが、一般的なガソリン車では、Dレンジ(MT車ではニュートラル以外のギア)で走行中にアクセルオフにすると、燃料カットの制御が入り、燃料の噴射が止まる仕組みとなっている。さらにシフトダウンを行うと、エンジンはポンピングロスを起こして「回転抵抗」が強く働く。そうなると、クルマには減速する方向に力がかかる。
燃料カットの制御は、設定されたエンジン回転数(クルマによって違う)よりも小さくなると解除され、アイドリング時の燃料噴射量となるが、それまでは燃料消費はしない。しかし、Nレンジで走行すると、エンジンはアイドルを維持するため、アイドリング時の燃料噴射量で燃料は消費される。下り坂をNレンジで走行すると、エンジンブレーキを使用したときと比較して、若干ではあるが燃費は悪化してしまうのだ。
そればかりか、Nレンジのまま走り続ければ、下り坂で、惰性で進んでしまうクルマを減速させるにはフットブレーキに頼るしかなく、フェード現象やべーパーロック現象による事故のリスクが高まる。せっかく「エンジンブレーキを使用して」と看板で注意喚起をしてくれているのに、「ここで燃費を稼ごう」という、いやらしい気持ちで事故リスクを高めていては、元も子もない。
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