2030年、確実に増えている電気自動車(EV)だが、技術的な進化はどうなっているのか? 御堀直嗣氏が予測する。
文/御堀直嗣
初出/ベストカー 10/10号(9月10日発売号)
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■EVの原価をどう下げていくか
世界初の市販EVとして、三菱i-MiEV、続いて翌年に日産リーフが発売され、10年余りが過ぎた。
10年前を振り返ると、欧州ではディーゼルターボ車が市場の半数近くを占め、国内ではトヨタのハイブリッド車が急速に人気を高めた。今日の、欧米や中国を中心としたEV普及へ向けた動きは、当時、想像もつかないことだった。
9年後の2030年へ向け、これからはEV普及の動きが活発化していくだろう。理由は、日本を含め世界の人々が、想像を超える自然災害の甚大化を目の当たりにし、気候変動の恐ろしさを実感したからだ。できることなら、今日にでも脱二酸化炭素を実現しなければ、安心して暮らすことができない事態となっている。
EV普及へ向けた取り組みの中心は原価低減だ。このため、海外メーカーは、ギガファクトリーと呼ばれるリチウムイオンバッテリーの大量生産工場の建設に投資し始めた。
同時に、例えば世界の新車販売で首位をトヨタと争ってきたフォルクスワーゲン(VW)はゴルフやポロといった小型車が主力のメーカーであるため、より価格の低いEVを実現しなければ企業として成り立たなくなるし、VW車を愛用してきた多くの市民も、EVだからといって高価な新車を買うことはできない。そこで、リチウムイオンバッテリーの電極材料を車格によって使い分けることも、原価低減策のひとつとしている。
また充電の社会基盤として急速充電ばかりに依存するのではなく、自宅や仕事先、旅先などの目的地で、200Vの普通充電ができるようにしていけば、余分なバッテリーを積む必要がなくなり、EV価格を下げることができる。
日産と三菱が来年度初頭に販売を予定する軽EVが、補助金などを利用して200万円ほどで購入できるようにすると発表したように、適切なバッテリー搭載量が価格低減につながるからだ。
企業にとっても、通勤者がEVを利用すれば、ガソリン代として支給してきた交通費をほぼ半額にできる。
■高い技術力への依存が日本の弱点
モーターでは、アウディe-tronやメルセデスベンツEQAは、希少金属を使う永久磁石式同期モーターではなく、電磁石を使う誘導モーターを採用している。米国のテスラも同様だ。その材料は、鉄と銅線だ。
普及を前提とした開発と生産を考えるなら、資源についても大量かつ安価に利用できる材料で、優れた性能を得る発想が必要だ。そこに、欧米のメーカーは着手している。
対する日本の弱点は、高い技術力に依存する傾向があることだ。普及を視野に入れれば、「いま利用できる技術や材料でいかに最高の商品を創出できるか」が勝敗を決する。部品メーカーを「系列」で操ってきた日本は、そこが弱い。
携帯電話にこだわった日本と、スマートフォンを創出した諸外国と似ている。全固体電池も、着想は既存のリチウムイオンバッテリーと変わらず、いまだに量産できていない。2030年へ向け、いかに知恵を使って低価格と商品力を両立させることが勝負どころとなる。
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